2023年上期の香港の新規株式公開(IPO)は大型案件がなかったこともあり、やや盛り上がりに欠けましたが、「明星株」の巨星伝奇集団が香港証券取引所の上場ヒアリングを通過したと伝わり、一部で話題となりました。日本語と同様に中国語でも「明星」はスターや人気芸能人を意味しますが、巨星伝奇集団はまさしく台湾出身の人気歌手、周杰倫(ジェイ・チョウ)が深く関わる銘柄で、7月13日に香港市場にデビューしました。
周杰倫は台湾のみならず中華圏で絶大な人気を誇り、作詞家や作曲家、俳優などとしても幅広く活躍しています。多感な時期に両親が離婚し母子家庭となったこともあり、母親や祖母に対する愛情は人一倍強く、母親の名前「葉恵美」をアルバムのタイトルにつけたり、祖母をコンサートのステージに上げたりしたことも有名です。日本との関わりでいえば、06年に東京国際フォーラムで、08年に武道館でそれぞれコンサートを開いているほか、日本の人気漫画『イニシャルD』の実写版映画『頭文字D』に主演しています。
香港上場の「明星株」、聯旺集団や卓珈控股など
日本ではジャニーズグループのメンバーの父親が創業者・社長を務める居酒屋チェーンが14年に当時のジャスダックに上場し、話題となったことがありましたが、香港でも芸能人が関係する「明星株」がいくつか挙げられます。代表的なものとしては、譚詠麟(アラン・タム)や曾志偉(エリック・ツァン)、成龍(ジャッキー・チェン)、梅艷芳(アニタ・ムイ)など香港を代表するビッグスターが共同で設立した東方魅力が挙げられます。ただ、東方魅力はすでに上場を廃止しており、現在も上場している銘柄としては、香港で土木工事や構造物の建設、土地の造成などを手掛ける聯旺集団が挙げられます。女優やテレビ司会者として活躍する黄翠如の父親が当時の筆頭株主で最高経営責任者(CEO)を務めており、16年の上場セレモニーには黄翠如やその妹などが駆けつけ、話題となりました。また、香港の銅鑼湾(コーズウェイベイ)や中環(セントラル)で美容クリニックを運営する卓珈控股は、女優兼歌手として活躍する黎珈而が支配株主兼会長、CEOを務めています。このほか、テレビ番組の制作会社、中国創意は上場段階で中国出身の女優、趙薇(ヴィッキー・チャオ)が投資を行ったことでも有名です。
巨星伝奇集団、周杰倫への依存大?台湾リスクも
話題を元に戻しますが、目論見書によると、巨星伝奇集団は小売事業とコンテンツ事業が収益の2本柱で、小売事業では周杰倫がイメージキャラクターを務める高脂肪・低炭水化物の「魔胴コーヒー」が大ヒット。「魔胴」ブランドで高脂肪・低炭水化物食を開発し、ネットで販売しています。コンテンツ事業では周杰倫が親しい友人と旅をする「J-Style Trip(周遊記)」を制作し、ネットフリックスや芒果TVで放送された実績を持つほか、コンサートなどのイベント運営も手掛けています。周杰倫は直接的に巨星伝奇集団の株式を保有していませんが、母親が創業者の1人で、芸能プロダクションの役員などと共同で株式を保有しています。
ここ数年、周杰倫は新曲をリリースしていませんが、それでも長女の進学先など一挙一投足が何かと話題になっています。一方、香港のメディアや証券会社は巨星伝奇集団について、目論見書の中に「周杰倫」の名前が300回近く登場するほか、22年の小売販売のうち周杰倫に関連する収入が半分近くを占めることなどに触れ、周杰倫への依存度が大きすぎるとして、リスクを指摘しています。また、台湾出身の歌手ということもあり、中国と台湾の政治的な緊張の高まりも事業に影響を及ぼす可能性があるとし、注意を促しています。