中国株投資を始めるためのキーワード

「万科企業」:中国不動産市場と資本市場発展の縮図

中国株を始めるためのキーワード。今回は中国の不動産大手、万科企業(02202/000002)について紹介します。万科企業は中国不動産市場誕生の黎明期に前身が創業され、資本市場が動き始めた1991年に株式上場を果たした。2010年の中国の不動産デベロッパーとして初めて販売額が1000億元を突破し、その後は何度も年間の不動産販売額ランキングトップに君臨。日本人投資家の間でも中国株といえば「万科企業」という時代もありました。万科企業のこの40年間の歩みは、中国の不動産市場と資本市場の発展の縮図といえるかもしれません。 



王石前会長創業の「国営企業」、貿易会社から不動産デベロッパーに

万科企業の公式には、創設者が王石前会長と記載しています。


1951年生まれの王石氏は中卒後に軍に入隊し、退役後は大学進学のチャンスを掴み、卒業後は広州鉄道局や、広東省対外貿易経済委員会での勤務を経て、1983年に深セン経済特区発展公司に入社。万科企業の歴史はここから始まりました。


当時の深センは中国の改革開放の最前線でした。王石氏は貿易部飼料科の科長を務めましたが、飼料貿易の儲けが万科設立の原資になったそうです。1983年末に飼料科の全従業員が科儀科(科学機材科)に転入し、翌1984年には万科企業前身となる「深セン現代科教儀器展銷中心」を設立。組織形態は「国営」、法定代表人は王石、主力事業は機材や電機の輸入販売で、同社は深セン特区で最大規模の撮影・録画機材の供給業者となりました。


「深セン現代科教儀器展銷中心」は1987年に「深セン現代企業有限公司」に社名を変更。日本のソニーなどと業務関係を築き、部品を輸入して国内で組み立てる新事業を始めました。「日本ソニー技術サービスセンター深セン支店」も設立。万科企業の公式サイトによると、そこで同社は初めて“顧客サービス”というものに触れ、後に不動産管理サービスなどを展開するノウハウを蓄えたそうです。香港資本を引き込んで時計製造や印刷、宝飾品製造などの合弁事業を立ち上げるなど、次第に事業規模を拡大しました。1988年には公開入札を通じて、深セン市の住宅用地(1991年完工の威登別墅)の開発権を取得したほか、深セン市宝安県と提携して開発プロジェクト「皇岡嶺万科工業区」に投資し、不動産業に参入。1990年に同社が開発した初の住宅プロジェクト「深セン天景色花園」が完工しました。


深セン市場の上場2社目、2014年にはB株のH株転換で香港上場

組織形態について、1986年に国営企業の硬直化した体制からの脱却を目指し、経営陣が2年以内に株式化改革を完了させると決定。深セン市中華会計事務所を財務アドバイザーに起用しました。その決定の通り、1988年に株式化改革が完了し、社名を現在の「深セン万科企業股フン有限公司」に変更。株式公募で2800万元を調達しました。


当時の中国証券市場は混沌とした黎明期。万科企業の株券は店頭市場で取引され、闇市場でも売買されました。深セン証券取引所が中央政府の許可がないまま、1990年12月1日に試験開業すると、万科企業は1991年1月29日、同証取に2社目として上場。ちなみに、深セン証券取引所が中央政府の許可を経て正式に開業したのは1991年7月3日でした。


中国証券市場の対外開放が進むなか、「海外投資家を相手とするエクイティファイナンス」を目的とした「B株」が創設されると、1993年に万科企業B株(銘柄コード:200002)が深セン証取引に上場し、グローバル資本市場にデビュー。その後は中国本土企業の香港上場が加速したことを背景に、万科企業は2014年、存在感が薄れたB株をH株に転換して香港市場に上場しました。



中国不動産市場の発展とともに成長、不況の荒波も波及

万科企業は当初、「総合商社」を目指していましたが、1993年に「大衆向けの住宅開発」を主力事業とする経営戦略を確立。中国の不動産市場の高成長を追い風に、売り上げを伸ばしました。2004年の10年発展計画では「2014年に販売額1000億元」を目標に掲げましたが、2010年に前倒しで達成。2016年には初めて米経済誌「フォーチュン」の世界企業番付「フォーチュン・グローバル500」にランクイン(356位)。21年は160位、22年は178位、23年は173位を付けました。


一方、2021年以降は大手の中国恒大集団(03333)をはじめ、民営デベロッパーの債務問題が次々と明るみに。債務問題が買い手の不信感を招き、買い控えから不動産販売が落ち込み、デベロッパーの資金繰りが一層悪化する、そして不信感がさらに高まる…という悪循環に陥り、不動産市場は空前の不況に陥っています。


これまで「優良児」とされてきた万科企業も、23年あたりから経営悪化や債務問題が警戒されるようになりました。販売不振で23年12月本決算は8%減収、46%減益、24年1-3月期決算は10%減収、純損益が前年同期の14億4600万元の黒字から3億6200万元の赤字に転落しました。会社は「生き残り」をかけ、非中核事業を売却し、経営資源を不動産開発、不動産管理サービス、住宅賃貸の3つの主力事業に集約させるほか、向こう2年間で1000億元以上の有利子負債を削減する計画などを打ち出しています。中国の不動産市場の発展とともに成長してきた万科企業のこれからの歩みが注目されます。





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中国株情報部 アナリスト

シ セイショウ

中国・上海出身。復旦大学を卒業後、外資系法律事務所で翻訳・通訳を担当。来日後は証券会社や情報ベンダーでの勤務を経て、2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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