ライフスタイルや価値観の多様化を背景に世界では「晩婚化」や「非婚化」の流れが進んでいますが、中国でも近年、同様の現象が大きな社会問題になっています。人口問題などを専門とするシンクタンク、育カ人口研究が発表した『中国婚姻家庭報告2022版』によると、中国の21年の婚姻登記件数は764万組にとどまり、8年連続の減少となりました。ピークだった13年(1347万組)との比較では583万組(43%)の減少となり、1986年以降で最も低い水準を記録しています。また、人口問題と密接に関係してくる初婚登記人数についても、13年の2386万人をピークに20年には1229万人まで減少しています。
適齢期の人口減で結婚率低下、男女比率の歪みや固定観念も一因
一方、1年間の結婚登記人数が平均人口全体に占める割合を示す結婚率は2000年の6.7%から13年に9.9%まで上昇した後、20年には5.8%に低下しています。リポートによれば、13年までは「80後」と呼ばれる1980年代生まれが結婚適齢期の主体だったものの、13年以降は人口の絶対数が少ない「90後」に入れ替わったため、近年は結婚率の低下が続いていると分析しています。ただ、「80後」「90後」「00後」の人口数はそれぞれ2億2300万人、2億1000万人、1億6300万人と先細りになっており、抜本的な対策が講じられなければ、今後も結婚率の低下は避けられそうにないのが現状です。
リポートではさらに、35年以上続いた「一人っ子政策」によってもたらされた深刻な男女比率の歪みに加え、「男高女低」という男性の学歴や地位は女性より高いほうがいいとする中国古来の固定観念も結婚率低下を招いた一因と指摘しています。例えば、男性と女性を結婚条件の優劣でそれぞれ1-4グループに分けた場合、男性の第1グループ(最も条件が良い)は女性の第2グループ(2番目に条件が良い)とペアになることが多く、男性の第2グループは女性の第3グループとペアになるため、必然的に男性の第4グループと女性の第1グループが相手を見つけにくい状況が生まれます。近年は女性の学歴や地位も年々高くなっており、20年の調査によれば、大学卒・大学院卒の学歴を持つ20-34才は中国に5894万人おり、うち男性が2788万人(全体の47.3%)、女性が3106万人(同52.7%)に上り、女性が男性を上回る状況となっています。
住宅購入支援策などが選択肢も解決は前途多難
これを踏まえ、リポートでは問題解決につながるいくつかの措置を提言しており、住宅関連のサポート強化を真っ先に挙げています。というのも、中国では結婚の条件として相手に「持ち家」を求める人が多く、住宅価格が下落すれば、結婚へのハードルも下がるとの見方。また、大都市などを中心に住宅の供給を増やすほか、養育費のかかる子どものいる世帯を対象に住宅購入支援対策を強化するよう求めています。
このほか、婚姻可能年齢の引き下げについても言及しています。日本ではこれまで男性18才、女性16才から結婚が可能でしたが、民法改正により22年4月1日からは男女ともに18才に統一されています。中国では現在、男性が22才、女性が20才となっており、他の主要国と比べて最も遅くなっています。「婚姻法」では当初、男性20才、女性18才から結婚が可能と規定されていましたが、急激な人口増加を懸念して1980年に男性22才、女性20才に引き上げられた経緯があります。一方、中国の総人口は22年末に61年以降で初めて減少に転じており、現在は出産を抑制するよりも奨励すべきであり、むやみに高い婚姻可能年齢は時代にそぐわないとしています。ただ、中国政府が住宅購入支援策や法律改正に乗り出したところで、恋愛や結婚に対する考え方を変えるのはなかなか難しく、社会全体での取り組みが必要となりそうです。