中国株投資を始めるためのキーワード

「全人代」、国家最高権力機関

中国株投資を始めるためのキーワード。今回は「全人代」について紹介します。


「全人代」(ぜんじんだい)の正式名称は「全国人民代表大会」です。中国の立法府で、日本の国会に相当し、国家の最高権力機関という位置づけです。中国の国家主席をはじめ、中国の最高行政機関や最高軍事指導機関、最高司法機関、最高検察機関の構成員はすべて全人代によって選出されます。 


日本でも昨年秋、「中国の習近平国家主席が慣例を破り、異例の3期目に入る」というニュースが大きく取り上げられましたが、正確に言うと現時点で決まったのは「共産党トップとしての3期目続投」です。全人代は近年では毎年3月に開催されるため、習氏が正式に3期目の国家主席に再任されるのも今年3月になります。


『中国人民共和国憲法』第62条の規定に基づき、全人代が行使する職権は16項目あります。以下はその一部抜粋です。 


全人代の開催時期と日程


中華人民共和国は1949年に建国されましたが、全人代の設立は5年後の1954年。文化大革命の混乱期など、まったく開催されない時期も長年続きました。1978年の憲法改正以降は毎年開催されることになり、1998年以降は、毎年3月5日に全人代が開幕します(新型コロナウイルスの感染拡大で延期になった2020年を除きます)。2019年以前は会期がおおむね10日間から2週間でしたが、コロナの感染対策のためか、2020年と2021年はともに7日間に短縮されています。全人代の閉会期間は全人代常務委員会が職権を行使することになります。


全人代常務委員会が必要と認めた場合、または5分の1以上の全人代代表が提議した場合は、臨時に招集することもできますが、臨時全人代が招集されることはこれまで一度もありませんでした。


議案の表決は無記名、賛成率の史上最低記録は67%


全人代はこの1-2週間の会期中に、政府活動報告やその年の国民経済・社会発展計画、中央・地方予算草案、最高人民法院活動報告、最高人民検察院活動報告、全人代常務委員会活動報告に加え、法律の改正案などを審議し、閉会日に表決を行います。投票は無記名で、過半数の賛成が得られれば議案が成立します。


いままで否決となったケースはなかったのですが、時には反対票や棄権票も出る場合があります。1992年の全人代で表決が行われた三峡ダム建設議案が賛成率の史上最低を記録しました。代表2633人のうち賛成が1767、反対が177、棄権が664のほか、25人が投票機のボタンを押しませんでした。賛成率は67%にとどまりました。



全人代代表の定員上限は3000人、習近平氏は内モンゴル代表


全人代代表は省、自治区、直轄市、特別行政区、人民解放軍から選出された代表で構成されます。一般国民が参加するのは県レベル以下の人民代表の選挙で、全人代代表の選出は間接選挙になります。全人代代表の定数上限は3000人と定められており、省、自治区、直轄市、特別行政区、人民解放軍に定数枠が割り当てられています。


全人代代表の任期は5年で、現在の代表は2018年に選ばれた第13期です。当選当初は2980人でしたが、全人代の公式サイト「中国人大網」によると、死去や離職などで22年12月時点では第13期代表は2926人となっているようです。 


また、近年では全人代代表に占める共産党員の割合が約7割、残り3割は民主党派や無党派になります。女性は2割超、少数民族は1割超。ちなみに、習近平氏は内モンゴル自治区から選出された全人代代表となっています。習氏は北京市で生まれ、陝西省の田舎で青年期を過ごし、政治家としては福建省、浙江省、上海市で要職を歴任したが、内モンゴルとは特に深い繋がりはなさそうです。なぜ内モンゴルの代表になったのか、国営『新華社』の記事によると、習氏本人は「共産党中央は少数民族・辺境地区を重視し、未発達地区の発展を加速させ、貧困脱却の堅塁攻略戦で勝ち抜く決心を表すため」と説明しています。


全人代と株式市場


株式市場で全人代ネタとしてとりわけ注目されるのは、国務院総理(首相)が開幕初日に行う政府活動報告(施政方針演説)です。政府活動報告は前年の経済状況を総括した上で、今年の主要経済目標や重点取り組みについて発表します。なかでも国内総生産(GDP)成長率目標への注目度が最も高いでしょう。2011年以前の約10年間は「保8」政策と言われる「前年比8%以上」の成長を目標にしてきたが、2012年は「7.5%」に設定され、コロナ禍前の2019年は「6-6.5%」でした。新型コロナで開催が5月に延期された2020年は目標値の設定が見送りとなり、2021年は「6%以上」、2022年は「5.5%前後」でした。


 

全人代の前後は、株式市場で政策の恩恵を受けそうなセクターが物色されやすいです。全人代テーマ株として、近年は消費や環境、ハイテク、インフラ関連などが挙げられます。


また、全人代代表のなかには、テンセント(00700)の馬化騰会長や小米集団(01810)の雷軍会長、吉利汽車(00175)の李書福会長など上場企業のトップも名を連ねています。全人代を前に、北京に集まった名だたる企業家らの取材記事が経済ニュースサイトを賑わい、その発言で株式市場が動意づくのも毎年の恒例イベントになっています。


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中国株情報部 アナリスト

シ セイショウ

中国・上海出身。復旦大学を卒業後、外資系法律事務所で翻訳・通訳を担当。来日後は証券会社や情報ベンダーでの勤務を経て、2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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