日本では都道府県ごとに最低賃金が定められていますが、中国でも省・自治区・直轄市ごとに最低賃金が定められています。中国の最低賃金は全日制就業労働者(正社員)に適用される月給と、非全日制就業労働者(パート)に適用される時給の2種類に大きく分けられ、地方政府が各地域の経済や就業などの状況に合わせてそれぞれ調整することになっています。
月給トップは上海の2590元、時給は北京の25.3元
中国の人力資源社会保障部が2023年4月に公表した資料をみてみると、中国で月給が最も高いのは上海の2590元で、次いで深センが2360元、北京が2320元と続きます。このほか、広東、江蘇、浙江、河北、天津、山東、四川、重慶、安徽、福建、湖北、河南を合わせた計15地域で最低賃金が2000元を超えており、全体の約半分を占めています。一方、時給が最も高いのは北京の25.3元で、次いで上海の23元、天津の22.6元と続きます。
中国は日本に比べて貧富の差も大きく、上をみればキリがありませんが、最低賃金に限った場合、1元20円で計算すると、最も高い上海でも月給は51800円(2590元)にとどまり、日本の水準と比べると大きく開きがあるように感じられます。ただ、上海の最低賃金は13年にわずか1620元だったことから、月給は10年で970元(59.9%)増えたことになります。日本では給料がなかなか上がらないと嘆く人も多いですが、上海では月給が最低でも10年で約6割増えるわけで、羨ましくも感じられます。
なお、中国では、養老保険、医療保険、労災保険、出産保険、失業保険、住宅積立金から成る6種類の社会保険があり、一般的に「五険一金」などと呼ばれていますが、最低賃金に個人負担分の社会保険料を含める地域もあれば、含めない地域もあるため、一口に最低賃金といっても、多少のズレが生じることになります。
上海は引き上げペース鈍化、経済好転で再加速へ
上海市の最低賃金は月給で全国トップとなっていますが、近年は伸びが鈍化しています。というのも、制度が導入されて以来、上海市はほぼ毎年のように最低賃金を引き上げてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大による経済への影響を考慮して20年は引き上げが見送られています。最後に引き上げられたのは21年7月で、2480元から2590元に110元引き上げられましたが、上昇率は4.4%と過去2番目に低い水準。22年は約2カ月にわたって大規模なロックダウン(都市封鎖)が実施されたこともあり、引き上げは再び見送られています。一方、23年に入ってからは、河北が1月1日付で最低賃金を2200元に、貴州が2月1日付で1890元にそれぞれ引き上げています。
華南師範大学の政治・公共管理学院で教授を務める孫中偉氏は、中国では21年に全体の3分の2に当たる約20地域が最低賃金の引き上げを実施したため、2022-23年に引き上げに踏み切る地域は小規模になるとの見方を示しています。ただ、貧富の差の縮小に向けて富を再分配する「共同富裕」の理念を中国政府が掲げる状況下で、最低賃金の引き上げは労働者とその家族の基本的な生活を保障するなど、重要な役割を担っていると指摘。経済状況が好転するに従って社会全体の見通しも上向けば、最低賃金の引き上げペースは再び加速することになるとの見通しを示しています。