中国国家統計局が発表したデータによると、2022年末時点の中国の総人口は14億1175万人にとどまり、出生数が同16万人減の956万人に縮小した半面、死亡数は新型コロナウイルスの影響もあって27万人増の1041万人に拡大し、結果的に総人口は85万人の減少に転じたことがわかりました。中国の総人口が減少に転じたのは1961年以降初めてで、想定内の出来事だったとはいえ、各所で衝撃的なニュースとして受け止められました。1961年といえば、1月にジョン・F・ケネディが米大統領に就任し、4月には旧ソビエトの宇宙飛行士、ガガーリンが人類初の宇宙飛行を達成。8月にはドイツを東西に分断した「ベルリンの壁」が作られた年でもあり、中国の人口減は61年ぶりとなります。
国家統計局は総人口が減少に転じた理由について、15-49歳の女性の数が2021年末比で400万人超減少し、なかでも21-35歳の女性の数が500万人近く減ったことを挙げています。また、出産や養育に対する考え方が変化したこと、晩婚化が進んだことも人口減に拍車をかけたと指摘しています。
一人っ子政策の代償、チャン・イーモウ監督は子供3人で罰金750万元
中国の人口減については、新型コロナの感染拡大で予想外に死者が増えたことで、時期が想定より早まったとの見方もありますが、「一人っ子政策」が比較的最近まで続いてきたことが最大の原因として挙げられます。少数民族は2人目の出産が認められるなど例外はあったものの、中国では基本的に1組の夫婦は1人の子供しか持てない状況が長く続きました。規則に違反した場合、公務員であれば失職を余儀なくされる場合もあり、『紅いコーリャン』や『菊豆』などで知られる映画監督の張芸謀(チャン・イーモウ)氏は7人の子供をもうけたとのうわさも浮上。結局、配偶者との間に息子2人、娘1人を設けたことを認めて謝罪し、750万元(約1億3000万円)に上る超高額の罰金を支払ったことは当時、大きなニュースとなりました。
中国ではその後、急速に少子高齢化が進むことへの危機感が強まり、2015年には1組の夫婦に2人までの子供が認められたほか、2021年には3人までの子供が認められるようになりました。ただ、北京や上海など都市部の教育費は日本を上回る水準に跳ね上がっており、出生数は思うように伸びていないのが現状です。
大規模改革なければ100年超にわたって人口減が続く可能性も
人口問題に詳しい米ウィスコンシン大学の易富賢氏は、国内総生産(GDP)の約3割を不動産関連産業が占める中国のような経済構造の場合、人口減は労働力不足だけでなく購入者不足などの問題も招くことになり、直接的に経済を減速させ、最終的には金融危機などを引き起こすリスクも孕んでいると指摘。また、労働力が不足すれば、国際的なサプライチェーンの中で対中投資を見直す動きが続き、就業などの問題も発生する可能性もあるとみています。易氏によれば、中国政府が「天地を覆すような」大規模な改革を行わなければ、今後数十年から長ければ100年超にわたって人口減が続くと予想。米国を抜いて世界トップの経済大国となる夢は叶わなくなる可能性もあるとしています。
上海財経大学の中国公共財政研究院で副院長を務める于洪氏は、中国政府は少子化の流れに応じた包括的な政策を打ち出す必要があるとし、具体的な施策として、養育費の補助や養育環境の提供などに加え、職場復帰した女性への配慮や若い夫婦の住宅ローンの軽減などを挙げています。
一部都市では1人目から補助金支給も、政府主導の支援策に期待
一方、一部都市ではすでに養育費の補助などに対する取り組みが始まっています。陜西省安康市寧陜県では1人、2人、3人の子供を育てる家庭にそれぞれ2000元、3000元、5000元を支給するほか、2人目に月600元、3人目に月1200元を支給することを決めており、中国で初めて1-3人目すべてを支給対象としたことで話題となりました。
また、江蘇省では産休に入った女性の養老保険や医療保健、失業保険について、2人目の場合は50%、3人目の場合は80%を補助することを定めているほか、湖北省荊門市では一部地域の住宅購入に際し、2人目がいる家庭に2万元、3人目がいる家庭に4万元の購入補助を行っています。ただ、人口問題の解決には長期的な視点に立った政策が必要であり、今後、中国政府が主導する大規模な支援が期待されています。