中国語で「蘋果」はリンゴを意味し、中華圏で「蘋果公司」と言えば「iPhone」や「iPad」などで知られる米アップルのことを指しています。同社の製品は日本をはじめ世界中で高い人気を誇りますが、9月には「iPhone16」シリーズに加え、「Apple Watch」や「AirPods」などの新モデルも発表されるとみられており、市場では素材や部品、組み立てなどアップルに関連する「蘋果概念株」への関心が高まりつつあります。
中国はiPhoneの生産の大部分を担っていることもあり、蘋果概念株は数多くあり、瑞声科技やBYDが代表的な銘柄として挙げられます。一方、アップルはほぼ毎年、サプライヤーのリストを公表しており、新たに掲載された企業などはニュースに大きく取り上げられることになります。
23年度版アップルサプライヤーリスト、中国からは新たに8社
今年4月に公表された最新の2023年度版(22年10月-23年9月)の「アップルサプライヤーリスト」をみてみると、中国からは、宝鶏チタニウム業、酒泉鋼鉄、北京中石偉業科技、凱成科技、三安光電、深セン市博碩科技、浙江東尼電子、正和集団の8社が新たに加わった一方で、江蘇精研科技、美盈森集団、深セン市得潤電子、盈利時の4社がリストから外れています。
今回リストに加わった8社のうち上場企業は5社あり、宝鶏チタニウム業は「中国のチタンバレー」とも呼ばれる陝西省宝鶏市高新区に拠点を構え、チタンとチタン合金の研究・生産に特化。北京中石偉業科技は熱伝導材料の生産などを手掛け、中国最大のLEDチップメーカーである三安光電は米ルミナスの買収や台湾のサン円光電への資本参加などでも知られています。また、電子製品の機能デバイスを生産する深セン市博碩科技は16年に設立と歴史は浅いものの、21年には深セン証券取引所の新興企業市場「創業板」への上場を果たしており、浙江東尼電子は炭化ケイ素(SiC)基板の生産などを手掛け、4社はいずれも各業界をリードする企業となっています。
インド製iPhone、25年は全体の23%に拡大か
アップルはこれまで、iPhoneをはじめとする各種製品について、ほぼすべてを中国で生産してきました。ただ、中国で新型コロナウイルスが大流行し、中国政府が「ゼロコロナ政策」を堅持した結果、サプライチェーンが大混乱に陥ったことはまだ記憶にも新しく、近年は中国政府が公務員にiPhoneの使用を禁止するなど、ネガティブなニュースも目立つようになってきています。
アップルは中国への一極集中を避けるべく、17年にインドで「iPhone SE」の生産を開始すると、相次いで「iPhone13」や「iPhone14」などにも種類を拡大させています。富智康集団を傘下に抱える台湾の鴻海精密工業はiPhoneの受託製造大手として有名ですが、アップルと足並みを揃えてインドでの生産を強化。20年6月に開催された株主総会では、中国への依存度を低減し、インドに重点的に投資する方針を明らかにしました。
調査会社カナリスの周楽軒アナリストは、アップルが積極的に生産の多元化に取り組んでおり、22年にインドで生産されたiPhoneは1500万台(全体の6%)に上ったと指摘。23年には2500万台(同12%)に、25年にはインドでの生産が全体の23%を占めると予想しています。
中国に優位性、中国回帰の動きも
ただ、周氏によれば、アップルがインドで生産するのは旧モデルが中心で、「iPhone Pro」などのハイエンドモデルは依然として中国の工場が生産を担っているようです。インドは消費市場としても成長性が高く、市場攻略において現地での生産が重要なポイントとなりますが、インフラや物流、川上-川下のサプライチェーンなどの問題もあり、インドでの生産は多くの制約を受けているのが現状。生産効率やサプライチェーンは中国に遠く及ばず、短期間のうちにインドが中国のポジションに取って代わるのは難しいとの見方を示しています。
一方、最近では、アップルが一部生産能力を中国に戻していると伝わっており、鴻海精密工業はiPhone16の発売に備え、河南省鄭州市にある工場で従業員を大量に急募しているとのニュースが話題となりました。
アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は今年3月に中国・上海を訪れた際、「アップルと中国のサプライチェーンはウィンウィンの関係であり、アップルのサプライチェーンにとって中国ほど重要な場所はない」と発言。また、アップルのジェフ・ウィリアムズ最高執行責任者(COO)は今年7月、「中国製造業の30年にわたる大きな進歩がなければ、アップルの成功はなかった」とも述べており、蘋果概念株に対する注目はまだしばらく続くことになりそうです。