中国株を始めるためのキーワード。今回はこの連載の「房住不炒」で少し触れていた「三条紅線」について紹介します。
「三条紅線」は超えてはならない3本の“レッドライン”を意味し、不動産デベロッパーの負債抑制に向けて、中国当局が2020年秋ごろから導入した資金調達枠を制限する規定です。当初は財務力の弱い一部企業が短期的に物件値下げによる早期の現金回収と負債の低減を迫られるものの、大手への影響は「限定的」との見方も出ていました。しかし、結局は中国恒大集団(03333)や碧桂園(02007)など、年間販売額が国内トップにも君臨していた大手民営デベロッパーが債務危機に陥る引き金となり、中国不動産市場はかつてないほどに落ち込んでいます。
「三条紅線」基準で企業を4ランクに、「赤」ランクは有利子負債の増加を禁じる
中国政府は2010年あたりから、住宅価格の高騰を抑制するために、住宅ローン規制や住宅購入規制などを始めました。習近平政権では「房住不炒」(住宅は住むためのものであって、投機するためのものではない)を掲げ、強力な政策を講じて不動産投機を徹底的に封じ込めるスタンスを堅持してきました。しかし、当局が引き締めを強化すると住宅価格の上昇がしばらく落ち着きますが、いったん緩めれば市場が再びヒートアップするのがこれまでの中国不動産市場の特徴でした。また、民営企業を中心に多くの不動産デベロッパーは、負債が自己資本を大きく上回る高レバレッジの財務状態が昔から続いてきました。これがやがて金融リスクにつながることへの危機感を強めた中国当局は、「三条紅線」の導入に踏み切りました。
この基準の下で、各社を「緑、黄、オレンジ、赤」の4つのランクに分類。3つのレッドラインにいずれも抵触しない全面合格が「緑」、1つ不合格が「黄」、2つ不合格は「オレンジ」、全面不合格が「赤」となります。一番上の「緑」ランクは翌年に有利子負債の規模を最大15%上乗せすることが認められますが、一番下「赤」ランクは19年6月時点を上限に有利子負債を増やしてはいけないと規制しました。
これまでも不動産企業の資金調達を規制する措置がしばしば打ち出されていましたが、「三条紅線」のような明確な数値基準は初めて。銀行融資に加え、社債、信託商品、資産運用商品、海外での資金調達などすべてが規制対象になり、レバレッジを拡大させる「抜け穴」がほぼ消えました。
中国人民銀行と住宅都市建設部は20年8月20日に不動産企業と座談会を開き、同座談会に呼ばれた碧桂園、万科企業(02202/000002)、中国恒大集団、融創中国(01918)、中梁控股(02772)、保利発展控股集団(600048)、新城発展(01030)、中国海外発展(00688)、深セン華僑城(000069)、緑地控股集団(600606)、華潤置地(01109)、陽光城集団(000671)の12社が9月にスタートする「三条紅線」の試験運用の対象となりました。当時の報道によると、19年通期の指標で「緑」に分類されたのは保利発展控股集団や中国海外発展、華潤置地、深セン華僑城などで、碧桂園や万科企業は「黄」、中国恒大集団と融創中国は「赤」でした。
22年の上場不動産デベロッパー上位100社、「三条紅線」の3指標がいずれも悪化
当局は規制によって、不動産企業が財務体質の改善に取り込むことを迫る考えでした。座談会の参加企業は、同年9月末までに「ランク上げ」プランの提出を求められました。1年以内のランク上げ目標と、3年以内の全面合格の達成に向けた取り組みを詳細に報告しなければなりません。21年1月から「三条紅線」の正式運用が始まりました。
中国の諸葛データ研究センターが23年4月にまとめたデータによると、中国の上場不動産デベロッパー上位100社の22年の純負債率は174.8%と、21年に比べ49.8ポイントも上昇しました。前受金除外後の資産負債比率は73%となり、同0.4ポイントの上昇。現金短期債比率は1.09で、0.17ポイント低下しました。「緑」ランクは前年比6社少ない29社、「黄」ランクは2社少ない20社、「オレンジ」ランクは1社少ない21社、「赤」ランクは9社多い30社。正式運用から2年が経過しましたが、「三条紅線」による規制で企業の財務情況は改善どころか、不動産市況の冷え込みにより、数値はすべて悪化しました。