香港は1997年に英国から中国に返還されましたが、香港特別行政区設立記念日である7月1日には毎年、返還を記念して香港各地で花火大会やイベントなどが多く開催されています。27年目となる今年の政府主催記念セレモニーでは、香港の李家超(ジョン・リー)行政長官が中国から新たにジャイアントパンダ2頭が香港に寄贈されることを明らかにし、話題を集めました。中国の国家林業草原局がすでに対象となる5-8歳のパンダ2頭を選定しており、10月1日の国慶節を目処に香港に到着する予定となっています。
香港に初めてパンダが寄贈されたのは1999年のことで、安安(アンアン、雄)と佳佳(ジアジア、雌)を迎えましたが、佳佳は16年に、安安は22年にそれぞれ亡くなっています。一方、07年には楽楽(ラーラー、雄)と盈盈(インイン、雌)が新たに加わり、2頭は現在も香港海洋公園(オーシャンパーク)で飼育されています。香港にパンダが来るのは07年の楽楽と盈盈以来、およそ17年ぶりで、四川省を訪問した李家超行政長官や香港文化体育・旅遊局の楊潤雄局長によれば、香港に来る雄のパンダは体重120キログラム、動作は機敏で聡明とのこと。雌のパンダは体重100キログラム、性格はおとなしく可愛いとのことです。
日本では香香、韓国では福宝が大ブーム
中国が外交の手段としてパンダを送る「パンダ外交」は世界的にも有名ですが、中国政府の思惑は別として、外見や動作は愛くるしく、パンダは行く先々で大ブームを巻き起こしています。日本では、東京・上野動物園で飼育されている力力(リーリー、雄)と真真(シンシン、雌)との間に17年に生まれた香香(シャンシャン、雌)が記憶に新しいですが、23年に中国に帰国するまでの7年間で日本にもたらした経済効果は香香1頭だけで29億HKドル(約587億円)に上ったと推定されています。
お隣の韓国では、ソウル近郊にあるテーマパーク、エバーランドで飼育されていた楽宝(ローバオ、雄)と愛宝(アイバオ、雌)との間に20年に福宝(フーバオ、雌)が誕生。コロナ禍と重なったこともあり、姜さんと宋さんの2人の飼育員による動画配信は多くの人を虜にしました。福宝はその溺愛ぶりから「福公主(公主はお姫様の意味)」などとも呼ばれ、今年4月に韓国を離れる際は、平日の午前中にも関わらず、6000人を超える市民がエバーランドに見送りに訪れたとされています。
一方、中国と複雑な関係にある台湾では、国民党の馬英九政権が発足した08年に団団(トゥアントゥアン、雄)と円円(ユエンユエン、雌)が台北市立動物園に来ています。「団円」は中国語で「一緒になる」というような意味もあり、当時は反発の声が多く聞かれましたが、それでも市民の関心は高く、今日は笹をどれぐらい食べた、どれぐらい排泄した、なんて記事が新聞に毎日掲載されていました。
日本や韓国に続け、観光業界を中心にパンダに期待感
香港では例年、香港特別行政区設立記念日である7月1日に合わせて民主派がデモ活動を行ってきましたが、20年6月30日に国家安全維持法が施行されて以降はデモ活動が厳しく制限された状態が続いています。そんな事情もあり、中国からのパンダ寄贈を手放しで喜ぶことはできないものの、日本や韓国での一大ブームもあり、観光業界を中心に新たに迎えるパンダへの期待は高まっています。
香港立法会議員の姚柏良氏は、韓国の飼育員による動画配信などは参考になると指摘。インフルエンサーを仕立ててSNSなどで宣伝することで、市民の好奇心を満たすと同時に、インタラクティブな効果も期待できるとしています。また、業界団体である旅遊促進会の崔定邦総幹事は、海洋公園は香港政府観光局や旅行会社などと協力して多様な旅行商品を投入する必要があるとし、パンダ関連の知的財産(IP)ビジネスを確立し、関連商品を発売するほか、パンダをテーマにしたフードメニューやホテルルームなどを展開するよう提案。香港経済の回復が思うように進まない中、新たに迎えるパンダへの期待は日増しに大きくなっているようです。