香港では大型台風が近づくと台風警報が発令され、一定レベル以上に達すると、証券市場は取引停止を余儀なくされる「打風停市」の状況が続いてきました(参考:「シグナル8」:台風襲来で取引停止、制度見直し議論本格化)。ただ、香港証券取引所は近年、上海や深センをはじめ、海外の証券取引所との提携を強化していることもあり、「打風停市」は円滑な取引を行う上で大きな障害に。他市場と歩調を合わせるとともに、国際金融センターとしての地位を向上させるため、「打風停市」の制度は廃止が決まり、今年9月23日からは天候に左右されることなく、悪天候下でも通常取引が続けられる「打風不停市」が実現しています。
台風「トラジー」襲来で制度廃止後初めてのシグナル8発令
今年は日本でも各地で記録的な猛暑や豪雨などに見舞われましたが、11月に入っても異常気象は続いており、今月上旬に台風22-24号が続けて発生。12日には25号も加わり、1961年の統計開始以降で初めて4つの台風が同時発生する異常事態となりました。このうち、香港に影響を与えたのは台風23号「トラジー」で、「打風不停市」の実現以降で初めて台風警報のシグナル8が発令されています。
悪天候による取引停止の制度はすでに廃止されているため、シグナル8発令による取引への影響はもちろんありません。ただ、日本の気象庁に当たる香港天文台は現地時間13日午後11時10分にシグナル8を発令し、11時間10分後の翌14日午前10時20分に解除しているので、制度が廃止されていなかったと仮定した場合、取引は午後1時(後場)から再開となり、前場は休場になっていたと想定されます。
半日の休場で1275億HKドルの取引がゼロ、制度廃止で回避
香港政府が「打風不停市」の実現に向けて意見を募る方針を打ち出したのは23年9月のことで、当時は台風襲来により2週間で2日間の取引停止を余儀なくされたタイミングでした。23年1-8月の香港市場の売買代金は1日当たり平均で約1120億HKドルだったことを参考にすると、2日間の休場で約2240億HKドル相当の取引が失われた計算となります。
一方、中国政府が24年9月以降に相次いで景気対策を打ち出したこともあり、最近の香港市場は活況が続いており、1-10月の売買代金は1日当たり平均で約2550億HKドルと急増。14日前場の取引が停止されていた場合、半日だけの休場でも約1275億HKドルが失われることになります。
香港証券取引所が得る各種手数料は1日当たり4000万HKドル強
香港証券取引所は売り・買いともに約定金額の0.00565%を手数料として徴収しているため、1日の売買代金が2550億HKドルだったと仮定した場合、1日当たりの手数料収入は約2880万HKドルと計算されます。香港証券取引所の発表によれば、24年7-9月期の取引手数料と取引システム使用料、約定・決済手数料は合わせて27億5000万HKドルに上っており、取引日数(68日)で割ると1日当たり4040万HKドルと計算されることから、「打風不停市」の実現で香港証券取引所は4000万HKドル強を失う必要がなくなったと言えます。
国際金融センターとしての地位向上に向け改革推進へ
シグナル8の発令下で初めての通常取引となった14日は、米中関係の悪化懸念に加え、中国の主要経済指標を翌日に控えていたこともあり、ハンセン指数は5営業日続落し、2%近く下落。終値で9月25日以来、約1カ月半ぶりの安値を付けましたが、悪天候による大きな混乱は特になく、取引は円滑に行われたようです。当日のメインボードの売買代金は1732億6000万HKドルだったことから、香港証券取引所は取引手数料だけでも1958万HKドルを稼いだ計算になります。
香港政府の財経事務・庫務局(Financial Services and Treasury Bureau:FSTB)はSNSで、台風「トラジー」の襲来があったものの、金融市場は雨や風の影響を受けることなく、中国本土との相互取引を含む証券市場とデリバティブ商品市場では取引が正常に行われたと説明。FSTBの許正宇局長は業界関係者に対し、過去数カ月間にわたるテストと予行演習の努力が金融市場の安定運営につながったとし、感謝の意を示しています。
最近の香港市場は国慶節(10月1日)前後の急騰を経て調整が続いていますが、FSTBは、「打風不停市」の実現は香港市場の国際化や競争力の向上につながるものであるとし、香港の国際金融センターとしての地位向上に向けて主体的に改革を進めていくと意欲をみせています。