中国株投資を始めるためのキーワード

「無人タクシー」:商業化に熱い期待

中国株を始めるためのキーワード。今回は中国でいま注目されている無人タクシーについて紹介します。


中国では自動運転タクシー(ロボタクシー)の商業サービスが多くの都市で試験的に行われています。「試験的」なので、サービスエリアを道路事情がシンプルで交通量の少ない郊外に限定したり、安全担当者の乗車を義務付けたり、当然ながらさまざまな規制があります。北京市や深セン市、重慶市、湖南省武漢市など一部の都市では、車内に安全担当者いない完全無人の自動運転車による商業サービスを指定エリアの路上で行うことも認められています。


百度のApollo Go、武漢で無人タクシーへの配車依頼件数は人間ドライバーに匹敵?

早くから自動運転技術の開発に取り組んできた中国の検索エンジン最大手、百度(09888)は自動運転タクシーの配車サービス「蘿蔔快ホウ(Apollo Go)」事業を2020年10月に北京市でスタート。現在は国内11都市で商業サービスを試験的に展開しています。足元で利用の拡大が加速しているもよう。百度の決算報告書によりますと、Apollo Goの配車依頼は23年通期で300万件超、24年1月2日時点で累計500万件超、4月19日時点で累計600万件超、7月28日時点で700万件超に達しました。


なかでも規制を積極的に緩和している武漢市で無人タクシーの普及が急速に進み、黒字化も見えてきたようです。21年にApollo Goの試験運営が始まったときは、対象エリアが同市の経済開発区の小範囲に限定されていましたが、次第に拡大。24年には市内の大半を占める12行政区、3000平方キロメートルとなっています。また、22年8月からは完全無人タクシーの商業サービスが解禁。規制緩和にともない、同市でApollo Goの配車依頼に占める無人車比率の上昇が目立っています。23年7-9月期が40%、10-12月期が45%、24年1-3月期が55%、さらに4月には70%となりました。4月時点で百度の創業者である李彦宏会長は向こう数四半期で100%に拡大すると見通しを示していましたが、同社の24年6月中間決算報告書によると、6月19日時点でおおむね100%を実現しました。


中国メディアの報道によれば、武漢市でApollo Goの無人タクシーの配車依頼はピーク時に1日1台当たりの20件を超え、普通のタクシードライバーに匹敵する水準に。人間のドライバーの生活を脅かすのではないかと懸念する声すら上がっています。


無人タクシーの利点として、料金が一般の配車サービスより安い(半分から3/4)上に、乗車拒否や遠回り、代金の不当請求といった心配がないことが挙げられている。Apollo Goアプリのアンケートでは顧客満足度が5点中4.9点、うち5点満点は94.19%を占めたそうです。


百度は収益化に目処、アリババ集団・テンセント・トヨタ出資企業なども展開

百度は今年5月のアポロのテクノロジーオープンデー「Apollo Day 2024」で、江鈴汽車(000550)と共同開発した第6世代の自動運転車「頤馳06」を披露。販売価格は20万4600元で、コストが第5世代を60%下回り、ほか自動運転車企業の無人車よりも遥かに安価になっています。百度の自動運転事業部の責任者を務める陳卓氏は、今年末までに武漢市に無人車1000台投入する計画を明らかにしました。武漢市全エリアをカバーする24時間営業も目標。陳氏は、車体コストの低下や、運営規模の拡大を背景に、武漢市で展開するApollo Go事業は24年末時点で収支均衡を達成し、25年から利益を計上するとの見通しを示しました。百度は武漢市での経験を活かし、ほかの都市でもApollo Goの収益化を図るとしています。


百度のほか、上海汽車集団(600104)傘下の賽可智能科技、アリババ集団(09988)が出資する自動運転開発スタートアップ企業のAutoX、トヨタと資本関係を持つ新興企業の小馬智行、広州汽車集団(02238)とテンセント(00700)が共同出資の如祺出行(09680)なども中国各地で自動運転タクシー商業利用の実証試験を展開しています。また、米テスラも中国で自動運転タクシーの構想を打ち出しているようです。同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は24年4月に中国を訪問した際に、自社の「フルセルフドライビング(FSD)」を搭載した自動運転タクシーの試験走行を提案。6月に上海で走行テストの許可を取得したと報じられています。


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「香港小売業」:かつての「買い物天国」、中秋節・国慶節で巻き返しに期待
「無人タクシー」:商業化に熱い期待
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「蘋果概念株」:iPhone16発表控え再注目、代表銘柄に瑞声科技やBYDなど
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「中国股民の誕生」:冷淡から熱狂へ 1990年の株式投資ブーム
「相互取引制度」:本土投資家は香港株に、海外投資家はA株に投資が可能 制度の整備進む
「新中国の証券取引市場の誕生」:発行市場の広がりで流通市場が生まれる
「中国恒大集団」:本土不動産子会社に罰金、仲介機関や監査事務所にも波及
「新中国の株券の誕生」:株式制度の原点からのスタート
「金と中国」:人民銀は21年11月から買い増し継続、産金株は高値更新相次ぐ
「万科企業」:中国不動産市場と資本市場発展の縮図
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中国株情報部 アナリスト

シ セイショウ

中国・上海出身。復旦大学を卒業後、外資系法律事務所で翻訳・通訳を担当。来日後は証券会社や情報ベンダーでの勤務を経て、2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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