中国株投資を始めるためのキーワード。今回は香港証券取引所の2通貨建て取引について紹介します。
香港証券取引所で2023年6月19日から香港ドル・人民元の2通貨建てで取引する「デュアルカウンター」モデルがスタートしました。香港市場に上場し、香港ドルで取引されている銘柄は、「人民元建て取引カウンター」を新設すれば、人民元建てでも売買できるようになりました。2つのカウンターを跨いだ取引も可能で、投資家は香港ドルで買った銘柄を人民元で売ることや、その逆もできます。
第1弾対象は24銘柄、売買代金合計は市場全体の約4割
第1弾の「デュアルカウンター」の対象銘柄は24銘柄。大型ネット株のテンセント(00700)、アリババ集団(09988)、美団(03690)、JDドットコム(09618)、アジア生保のAIAグループ(01299)、中国通信キャリア最大手のチャイナ・モバイル(00941)など、時価総額上位の銘柄がずらりとリストに並びました。わずか24銘柄ですが、これらの銘柄の1日当たり売買代金を合計すると、香港市場全体のおよそ4割にも上ります。人民元カウンターの銘柄コードは「8」で始まり、下4桁は香港ドルカウンターと同じです。例えば、テンセントの場合は「80700」になります。
マーケットメーク制度の採用で取引活性化を図る
香港市場では人民元建て株式が実は10年以上前から存在していました。香港証取は2010年に人民元建て株式の発行を認める「双幣双股」制度を導入しましたが、それを利用して人民元建て株式を発行したのは深セン投控湾区発展(00737)など極少数でした。現在も取引自体は続いているものの、出来高は極めて低調です。この教訓を踏まえたのか、今回のデュアルカウンターモデルはマーケットメーカーが中心的な役割を担います。
マーケットメークは金融市場の取引方法の一つで、投資家は取引所から指定されたマーケットメーカー(証券会社など)と相対取引で売買を成立させます。マーケットメーカーには気配値の常時提示義務がありますが、印紙税(取引コストの約9割)が免除されるため、低コストで裁定取引を実施できます。香港証取の説明によりますと、マーケットメーカーが人民元カウンターの流動性を提供し、香港ドルカウンターと人民元カウンター間の価格差を縮小させる役割を果たします。第1陣のマーケットメーカーは中国国際金融(03908)、CLSAなど9社で、うち本土系が4社、外資系が5社を占めています。
オフショア人民元預金は2.6兆元、香港株への直接投資が可能に
デュアルカウンターの導入は現時点で香港証取の売買代金の拡大への効果は限定的ですが、世界最大のオフショア人民元取引ハブという香港の地位を強化することに貢献するほか、人民元グローバル化の加速にもつながるとみられています。中国国際金融(CICC)によりますと、現時点でオフショア人民元預金は全世界で2兆6000億元に上り、うち香港での同預金残高は9856億元。また、ロシアや中東諸国など、現時点で約30の国が中国との取引で人民元を決済通貨にしています。香港市場のデュアルカウンターの導入で、オフショア人民元が直接的に香港株に投資する道が開きます。
香港政府の財経事務・庫務局(Financial Services and Treasury Bureau:FSTB)の許正宇局長は、米国の金利の変動が世界の為替相場に大きな影響を及ぼすなか、アジアを含む多くの地域で資産ポートフォリオの多様化が積極的に進められており、自然的に人民元が選択肢の一つになるとの見解を示しました。また、次の段階では、中国本土から香港株に投資する「港股通」(サウスバウンド・トレーディング)経由で人民元建て株式に投資することを可能にする方針を表明しています。本土投資家が人民元で香港株を売買できれば、為替リスクの回避と取引手数料の低減といったメリットがあり、香港市場の流動性の向上と取引の活性化に寄与することが期待されます。