日本でも経営危機が大きく報じられ、長らく市場を騒がせてきた中国の民営不動産企業、中国恒大集団ですが、ここに来て事態に進展がみられています。というのも、中国証券監督管理委員会(CSRC)は5月下旬、中国恒大集団の傘下で中国本土の不動産開発を担う恒大地産集団に対し、財務報告書に虚偽記載があったなどとし、41億7500万元(約907億4500万円)の罰金を科すと発表しました。また、グループを率いてきた許家印会長についても、4700万元(約10億2200万円)の罰金を科し、証券市場から永久追放することを決めています。
かつては本土デベロッパーの総合実力ランキングでトップに君臨
中国恒大集団は許会長が1996年に広東省広州市で創業しました。中国本土で住宅需要の拡大が続くなか、多額の資金を借り入れて事業を一気に拡大し、北京中指信息技術研究院がまとめた中国不動産デベロッパーの総合実力ランキングでは、2017年から21年まで5年連続でトップとなっています。また、不動産開発だけにとどまらず、事業の多角化も推進し、08年2月には健康関連事業と電気自動車(EV)事業を手掛ける中国恒大新能源汽車が香港市場に上場し、20年12月には不動産管理子会社の恒大物業集団も上場を果たしています。
ただ、中国政府が20年に「3つのレッドライン」(三条紅線)を導入したことで経営環境が大きく悪化。中国政府は、前受け金を除く資産負債比率が70%以下、純負債比率100%以下、短期負債に対する現金保有が1倍以上とする3つの指標に基づいてデベロッパーを分類し、資金調達を制限に乗り出します。中国恒大集団は3つ全てに抵触するハイリスクの「赤」に分類されたことで、事業拡大に急ブレーキがかかり、業績も悪化の一途を辿ることになりました。
恒大地産集団に罰金、仲介機関も調査中
CSRCは恒大地産集団の粉飾決算について、社債の発行体であるにも関わらず、実際の財務状況を隠ぺいし、投資家に虚偽の情報を流したと指摘。金額は大きく、手法も卑劣であり、デフォルト(債務不履行)などの重大な結果を招いたとし、厳しく非難しています。また、社債の発行に関わった仲介機関についても、市場での注目度は高く、調査を進めていることを明らかにしました。
専門家は、社債の発行に関わった仲介機関に対するCSRCの処罰は比較的重いものになると予想しています。より良い資本市場の発展に向けた「見せしめ」的な意味合いを持つほか、今後さらに多額の民事訴訟にも直面することになるとの見方を示しています。
監査担当のPwCにも厳しい処分か、顧客流出止まらず
一方、中国恒大集団は5月下旬、中国恒大新能源汽車の株式31億4500万株(発行済み株式総数の29%)を第三者に売却することで合意したと発表。第三者は32億300万株(同29.5%)についても一定期間内に取得する権利を持ち、最大で63億4800万株(58.5%)となる見通しです。第三者はまた、資金難で年初からEVの生産を停止している中国恒大新能源汽車への資金援助にも同意しています。
資産売却の進展が伝わるなか、5月下旬には中国当局が中国恒大集団の監査を担当したプライスウォーターハウスクーパース(PwC)に対し、会計事務所として過去最大規模となる金額の罰金を科すことを検討していると伝わりました。中国にある一部事務所の業務停止も検討しており、罰金額は少なくとも10億元に上るとみられています。
中国本土メディアの報道によれば、PwCが23年に監査を担当した企業はA株上場会社だけでも107社あったとされ、監査収入は8億元超に上っていたようです。ただ、中国恒大集団の問題を受け、国有企業を中心に監査事務所を変更する動きが強まっており、24年の監査収入は2億元超減少すると予想されています。直近1カ月だけでも、中国太平保険や中国中鉄、青島ビール、昆侖能源、ペトロチャイナ、中国人民保険など大手企業が契約の打ち切りを決めており、中国恒大集団の余波は不動産業界だけにとどまらず、しばらく続くとみられています。