一般的に警戒が必要な対象をまとめたものが「ブラックリスト」であり、その対義語として「ホワイトリスト」がありますが、中国では最近、「白名単(中国語でホワイトリストの意味)」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。ここでいう白名単とは、中国当局が主導してまとめた融資に適した不動産プロジェクトのリストのことを指しており、銀行に速やかな融資の実施を求めています。
中国ではかつて不動産業が中国経済の成長を牽引する重要な役割を担っていましたが、近年は長引く販売の低迷を受けてデベロッパーの資金繰りが悪化。業界大手の中国恒大集団や碧桂園などの苦境は日本でも大きく報じられましたが、デフォルト(債務不履行)に直面するデベロッパーも少なくなく、工事の中断などが社会問題となっていました。中国では完成前の物件を販売する予約販売が主流となっていることもあり、中国政府は新築物件の引き渡しを保証する「保交楼」政策を掲げて社会不安の取り除きに努めており、白名単への期待も必然と高くなっています。
24年3月末時点でプロジェクト1247件に総額1554億元の融資が実施
白名単を巡っては、中国の住宅都市農村建設部と金融監督管理総局が2024年1月12日に連名で発表した「都市不動産融資協調メカニズムの整備に関する通達」が最初で、デベロッパーが直面する資金調達面での困難や問題を解決するため、地級市クラス以上の都市に対して都市不動産融資協調メカニズムを構築するよう求めています。
中国ではこれまでにも不動産分野の資金調達を支援する政策はありましたが、今回の白名単がこれまでと異なるのは、リストの対象がデベロッパー単位ではなく、プロジェクト単位であるということ。デベロッパー本体の財務状況に関わらず、要件を満たせばプロジェクトはリストに収載され、現地の金融機関に送られることになります。
リストを受け取った金融機関は、プロジェクトの進展や担保、財務などの状況を評価したうえで、積極的に融資を実施していくことになります。一時的に困難に直面したプロジェクトについては、金融機関はむやみに貸し剥がしなどをしてはならず、期日の延期や返済スケジュールの調整などを通じてサポートに努めるほか、資金がその他の開発用地の取得などに使われることのないよう、管理を強化することなどが求められています。
中国当局の通達を受けて各地方では白名単の作成に向けた動きが一気に加速。中国の住宅都市農村建設部によると、通達から約3カ月で全国31省・直轄市・自治区と新疆建設兵団がすべて省レベルの「不動産融資協調体制」を、地級市クラス以上の都市(直轄市を除く)がすべて「都市不動産融資協調体制」の構築を終えたほか、24年3月末時点で白名単に収載されたプロジェクトのうち、1979件のプロジェクトに対して総額4690億3000万元の与信枠が付与され、1247件に総額1554億元の融資が実施されています。
優等生の万科企業にも債務問題、業況回復はまだ先か
ただ、不動産データサービス会社の克而瑞(CRIC)によると、24年1-3月の中国不動産企業トップ100社の販売額は7792億4000万元にとどまり、前年同期比で47.5%減少。中国国家統計局が発表した2024年3月の住宅価格統計によると、主要70都市のうち、新築分譲住宅価格(保障性住宅を除く)が前月比で下落したのは57都市と前月から2都市減ったものの、依然として上昇(11都市)を大きく上回る状況が続いています。
一方、最近は万科企業の債務問題が市場では注目を集めています。不動産業だけにとどまらず、サッカーチームの買収や電気自動車(EV)事業への参入など事業拡大を急いだ中国恒大集団とは異なり、万科企業は中国不動産企業の「優等生」ともいわれていただけに、債務問題が持ち上がったことは市場で大きな衝撃して受け止められました。シンクタンクの安邦智庫はリポートで、中国の不動産市場にソフトランディングという「春」はまだ到来せず、需給バランスが崩れた「冬」もまだ過ぎ去っていないと指摘。不動産市場はしばらく下落トレンドが続くとの見方を示しています。
また、米格付け会社のS&Pグローバルはリポートで、白名単は物件の引き渡しを巡る不確実性を減らし、買い手の信頼感を取り戻すことが目的であり、不動産デベロッパーが苦境を脱却するには効果が限定的だと分析しています。中国の不動産市場は依然として底を探る段階にあり、「L」字型の展開が続くと予想。市場の供給過剰と地方都市の需要の低迷を背景に不動産販売額はさらに減少するとの見方を示しており、不動産市場の回復には一段の対策が期待されています。