小麦の国際価格は1年2カ月ぶり安値
足もとで小麦の国際価格の下落が顕著になっています。国際指標である米シカゴ商品取引所の小麦先物(期近)は今年3月に1ブッシェル=13.6ドルと史上最高値を更新しましたが、そのあとは上値の重さが次第に目立ち、今週遂に7.2ドル台まで下落。約1年2カ月ぶりの安値を更新しました。
この背景には、最大輸出国であるロシアからの供給が想定を上回るペースで増え、ウクライナ危機や米欧の不作に伴う品薄感が和らいだことがあります。ロシアは世界最大の小麦輸出国。ウクライナ産ではなくロシア産の供給圧力に下押しされた格好です。市場では「黒海地域からの出荷安定を期待したヘッジファンドなど、投機筋の売りも膨らんだ」との声が聞かれています。
農業市場調査会社ソベコンは今週、ロシアの2022年7月-23年6月年度に小麦輸出量が4390万トンとなるとの見通しを示し、従来予想4370万トンから引き上げました。同社は「現在の輸出の急拡大は、ロシア産小麦が競争力を取り戻し始めた10月序盤以来の販売量の拡大に基づいている」と説明しています。
*小麦先物価格の日足チャート
出所:Trading View
もっとも、市場では「目先は軟調な流れが続くかもしれないが、中長期的には流れが強気に転じる」と予想する向きもあります。「米国の輸出低迷が続いているところへ、黒海からの穀物輸出合意延長やロシアの豊作見通し足元で売りを呼び込むという状況下、下落の流れには無理に逆らうべきではないが、ウクライナでは依然として激しい戦闘が続いており、状況は極めて不透明なままであることを忘れるべきではない」「ロシアが再び輸出合意を破棄することもあり得るし、戦闘が長期化すれば次年度の作付や生産に影響、供給不安が強まることも考えられる」(よそうかい・グローバル・インベスターズ・インク代表 松本英毅)。
NY原油先物価格は1年ぶり安値
NY原油先物相場はこの5日間、下落が止まらない状況です。NYマーカンタイル取引所(NYMEX)のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)で1月限の終値は1バレル=71ドル台前半まで売られ、約1年ぶりの安値を更新しています。世界の景気鈍化懸念が根強い中、エネルギー需要の先行きに対する警戒から売りが優勢となっています。
このまま小麦や原油などコモディティ価格の下落傾向が続けば、食料価格の高騰は収束に向かう可能性も。
*原油先物価格の日足チャート
出所:Trading View
日銀総裁は語る
黒田東彦日銀総裁は11月中旬、名古屋での経済界代表者との懇談における挨拶「金融経済情勢と金融政策運営」で、年度下期に入った10月に幅広い商品の値上げが行われたこともあって、今後、年末にかけてプラス幅はさらに拡大する見込みであると指摘しています。物価が上昇率を高めている背景には、「国際的な資源高」や「為替市場での円安」を背景に輸入物価が上昇し、そうしたコスト高の価格転嫁が進展していることが挙げるとしています。
一方で、先行きの物価上昇率は「年明け以降、徐々に低下していく」としています。国際商品市況はひと頃に比べて下落しており、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響は、減衰していくと見込んでいます。「今年度の消費者物価の上昇率は3%程度の伸びになる一方、来年度以降は1%台半ばの伸びになる」と予想しています。
コストプッシュ圧力をもたらしてきた国際商品市況や為替相場の動向など、不確実性は大きい状況ですが、現時点の円安一服(ドル円レート136円)やコモディティ価格の下落傾向を見ると、輸入物価の上昇圧力が緩和し、今後は物価上昇率が低下する可能性も。
値上げで疲弊した家計負担が今後は軽減することを期待したいところです!
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