小麦価格、2021年9月以来1年半ぶり安値
足もとで小麦の国際価格の下落が顕著になっています。国際指標である米シカゴ商品取引所の小麦先物(期近)は昨年3月に1ブッシェル=13.6ドルと史上最高値を更新しましたが、そのあとは次第に上値を切り下げ、今週遂に7ドル割れ寸前のところまで下落しました。1年半ぶりの安値を更新です。
指標となる米シカゴ市場の小麦先物は1日には一時1ブッシェル7.02ドル前後と2021年9月以来の安値を付けています。最大輸出国であるロシアからの供給が想定を上回るペースで増え、ウクライナ危機や米欧の不作に伴う品薄感が和らいでいるほか、黒海地域からの出荷安定を期待したヘッジファンドなど投機筋の売りも膨らんでいるようです。低価格で在庫が多いロシア産が出回っており、価格を押し下げている状況です。このところ言われている「食料価格の高騰は収束に向かう可能性」が高まっている状況です。
NY小麦先物の日足チャート
出所:Trading View
もっとも、「食料危機の火種はくすぶり続けている」との指摘も。小麦を巡っては「ウクライナでの不作が長期化しそうなことに加えて、世界の輸出量に占めるロシア産の比率が上昇し市場は不安定になっている」といいます。
農作物の生産に欠かせない肥料の調達難も広がっており、供給が細る局面では各国自国内の供給を優先し輸出を絞るため、「価格高騰・需給逼迫リスク」が再燃する可能性もあるようです。
世界の食料価格も1年半ぶり低水準
国連食糧農業機関(FAO)によると、1月の世界の食料価格は10カ月連続の下落となりました。FAO食料価格指数(FFPI、2014~2016年=100)はロシアのウクライナ侵攻を受けて2022年3月に159.7と過去最高値を記録しましたが、4月以降は毎月下落が続き、1月は平均131.2となりました。これは21年9月以来の低水準。過去最高値からは18%の下落となります。
出所:FAO
1月のFAO穀物価格指数は平均147.4で12月からわずかに上昇し、1年前の水準を6.7ポイント (4.8%)上回っています。主要穀物の中で、コメとトウモロコシの世界価格は上昇しましたが、大麦と小麦の世界価格は1月に下落しています。
小麦価格は1月に3カ月連続で2.5%下落しています。これは豪州とロシアによる想定以上の生産を受け、世界的な供給量が増加したためです。
4月以降の輸入小麦の売り渡し価格は今月上旬めどに対策決定
野村農林水産大臣は4月以降の輸入小麦の売り渡し価格について、「今月上旬をめどに値上げ幅抑制などの激変緩和措置を決定する方針」を示しています。日本は小麦の8割以上を輸入に頼っており、政府が製粉会社に売り渡す輸入小麦の4月以降の価格は“対策がなければ1割以上の大幅な値上がり”が見込まれています。
野村大臣は「ぐっと上がるようなことになれば消費者の皆さん方が大変だから、激変緩和対策を講じなさいというのが岸田首相の指示。買い付け価格の動向がどうなっていくのかまだわかりませんので、この買い付け価格の動向を注視しつつ検討を進めて3月上旬をめどに決定をしたい」と述べています。
政府は小麦の値上がり幅を抑制することで、家計負担に直結するパンや麺類の価格上昇を抑えたい考えです。
国産小麦の利用を強化する企業も
ロシアによるウクライナ侵攻から先月で1年が経ちましたが、海外産穀物の高値傾向や輸入環境の不安定化が続く中で、本邦実需勢の中からは“国産転換”を目指す動きが出てきています。製粉やパン業界などは国産小麦の利用を強化し、具体的な目標を掲げる大手企業も出てきています。増産や課題となる品質の向上に向けた支援策を設ける自治体も相次いでいるといいます。
日本農業新聞が報じたところによると、「国内有数のパンメーカーである敷島製パンは原料である小麦の国産割合を現状の14%から2030年までに20%に高める目標を掲げている」もよう。ただ、増産に動く産地はまだ少なく、需要を踏まえない増産は過剰在庫や価格下落を招くことから、「実需と産地が連携し、着実な国産転換」が鍵になると締めています。