米国のインフレ鈍化鮮明に
米国では6月の米消費者物価指数(CPI)が前月比0.2%/前年同月比3.0%と予想の前月比0.3%/前年同月比3.1%を下回り、12カ月連続で伸びが縮小しました。高い伸びが続いていた米国の物価上昇の勢いは落ち着きがみられています。
また、昨日13日に発表された6月米卸売物価指数(PPI)も予想を下回っており、物価上昇の勢いが落ち着いてきていることが鮮明になっています。物価上昇の勢いの鈍化が確認されたことから、市場では米連邦準備理事会(FRB)が取り組む金融引き締めの長期化への警戒感が和らぎ、米長期金利が低下。株価は上昇し、為替市場ではドル安が進んでいます。また、原油などのコモディティは反発しています。
CRB指数の日足チャート
出所:Trading View
S&P500とNASDAQの年初来パフォーマンス
出所:Trading View
ドル下落の予想増える
米インフレ指標の下振れを受けて、特にドルの下落を予想する声が増えています。為替市場でのドル安進行はドル建てで取引される原油や金に割安感を生じさせるため、これらのコモディティ価格は上昇しやすくなります。そのため、ドルの先行きを予想することはコモディティプレーヤーにとって、非常に重要なことです。
ドルインデックスの日足チャート
出所:Trading View
米金融大手ゴールドマン・サックス・グループは「ドル悲観派に加わった」と報じられており、リポートでは「インフレ鈍化に加えて、FRBが7月の会合後に忍耐強い姿勢を強めるとの期待から、ドルは大きく売り込まれている」と指摘。「インフレ統計で見られた下押し要因は、今後数カ月さらに弱まる可能性が高いとみられ、この流れは継続するだろう」としています。
ある市場関係者からは「ディスインフレのシナリオが完全に現実のものになっている。インフレは全面的に低下しているようだ。FRBは今月、再び利上げを実施する可能性が高いとみられているが、年内の利上げはそれで終わりになる可能性が非常に高い」との声が聞かれています。
注目すべきはCPIではなくPCE
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループがFF金利先物の動向に基づき算出する「フェドウオッチ」によると、FRBは7月に0.25%の利上げを実施し、そのあとは年末まで金利を据え置き、来年初めには利下げに転じるとの予想になっています。マーケットは先を織り込んでいくことから、米国株は年初来高値を付け、ドルインデックスは1年3カ月ぶり安値を更新。米金利は低下し、コモディティは反発となっている面もあります。
ただ、FRBが金融政策を判断するうえで重視している指標はCPIよりも米個人消費支出(PCE)価格指数(デフレーター)で変動が激しい食品とエネルギーを除くコアデフレーターです。
FOMC参加者の経済見通し(SEP)
*FRBのホームページより
米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の経済見通し(SEP)を見ると、PCEコアデフレーターは3.9%まで低下しなければならないことになりますが、先月末発表の5月米PCEコアデフレーターは4.6%。足もとの推移(下記チャート)を見ると、今年はほぼ横ばい圏で推移しており、インフレが低下傾向を強めているとまでは言えません。
また、米失業率も非常に重要で、FRBの予測では今年4.1%までは上昇しても良いと見ていますが、6月米雇用統計での数値は3.6%。つまり「FRBは金利を上げて、米経済を緩めても大丈夫」と言うことになります。「フェドウオッチ」などを見る限り、マーケットは7月の利上げを最後に来年初めには利下げまで織り込み始めていますが、まさにFRB高官が言うように「時期尚早」。
重要な指標は今月28日に発表されるPCEですので、今のマーケットのように前のめりになり過ぎるのは危険かもしれません。