小麦の国際価格、下げ渋り 2年半ぶり安値から戻す
今週、小麦の国際価格は下げ渋る展開となりました。指標の米シカゴ小麦先物は足もとで約3週間ぶりの高値を更新。黒海経由のウクライナ産穀物輸出について関係国の合意が5月中旬に延長されたにもかかわらず、ウクライナの港からの輸送回数が滞っていることなどが買いを誘ったようです。中国の小麦生産地での豪雨被害の発生も加わり、市場で供給懸念が強まっています。
NY小麦先物の日足チャート
出所:Trading View
国際指標である米シカゴ商品取引所の小麦先物(期近)は今週6日、1ブッシェル=6.4ドル台まで上昇し、黒海輸出合意の延長が成立した5月17日以来となる高値を付けました。5月末には5.7ドル台まで下落し、約2年半ぶりの安値を付けていましたが足もとで反発に転じています。
いったんは合意が成立していた黒海輸出協定に先行き不透明感が強まってきたことが背景にあります。ウクライナ復興省は1日、「ロシアがウクライナの全ての港に入港する船舶の登録を妨害している」と発表し、合意の履行が事実上「停止された」と訴えました。同国のソリスキー農業食料相は2日に「合意が破棄された場合、ロシアの支持が得られなくても輸出継続のための代替策を講じる」と語っていましたが、市場では供給懸念の再燃から小麦を買い戻す動きが強まったようです。
中国の小麦の最大産地である河南省での豪雨被害も市場の供給懸念を強めています。ある市場関係者は「穀物は米国の豊作予想を背景にやや売られ過ぎの水準まで落ち込んでいたため、足もとで持ち高を修正する動きが出ている」と指摘しています。
EU、東欧加盟5カ国によるウ産穀物輸入制限の延長承認
欧州連合(EU)欧州委員会は5日、ウクライナに隣接する加盟5カ国がウクライナ産穀物の輸入を制限する措置を9月15日まで延長することを承認しました。
EUはブルガリア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキアがウクライナ産の小麦とトウモロコシ、菜種、ひまわり種子の国内での販売を禁止する一方、他のEU加盟国を含む別の地域への輸出のためにこれらの製品の通過を容認することを許可しましたが、この有効期限は5日まででした。
5カ国側は価格の安いウクライナ産穀物が国内市場に出回って農家の収益が損なわれているとの理由で輸入制限延長を要請し、ウクライナは制限の撤廃を働きかけていました。こうした中、EUは9月15日まで段階的に制限措置を縮小していくと発表。5カ国における供給のボトルネックと貯蔵余力の乏しい状況は続いていると指摘し、こうした段階的な制限縮小を通じてウクライナから別の地域への穀物移送問題を改善できるとの見解を示しました。
ウクライナ、ダム決壊で農地の砂漠化も
ウクライナ南部のヘルソン州で6日に起こった巨大ダムの決壊による被害が広がっています。世界有数の規模を誇る農業への打撃は深刻で、同国の政府機関は2-3年は同州の約42万ヘクタールの農地で灌漑農業ができなくなると指摘しています。近隣のザポロジエ原子力発電所の安全性を巡る危機感も強まっています。
ダム決壊も小麦価格の上昇につながっています。
ウクライナ農業省は「南部のヘルソン州で6日に起こった巨大ダムの決壊により農地が水没し、少なくとも50万ヘクタールの農地で灌漑農業ができなくなり、土地が『砂漠化』する恐れがある」と指摘しました。
なお、市場では「目先はまだしばらく売り買いに振り回される不安定な展開が続く可能性が高いものの、そのあとは当面の底値を探ることになるだろう」と予想する向きも。「輸出の低迷は依然として大きな重しとなっており、ウクライナの供給不安も持続的な買いを呼び込むほどには高まっていない。持続的な買いに期待するのは難しい。ただ、供給面には不安材料が多く残っており、マーケットの注目がこちらに集まれば流れが変わる可能性がある」(よそうかい・グローバル・インベスターズ・インク代表 松本英毅)。