コモディティという世界

【コモディティという世界】第14回「主要中銀の金融引き締めでリスク資産下落 シートベルトの着用は必須」

今週もかなり荒い値動き


今週のマーケットもかなり荒い値動きとなっています。米国ではNYダウが27日に2020年11月以来の安値を付けて年初来安値を更新していますし、英国債相場は連日で急落。他の国にも債券売りが波及し、金利が上昇しています。米国株の急落は第11回の記事でも紹介した通り、巨大なマーケットであるために他の市場にも影響を及ぼします。前日の28日にはいったん反発した米国株ですが、再び下落に転じるようなら、コモディティ市場からもマネーがさらに流出してしまいます。

 

また、為替市場では米ドルがユーロに対しては約20年ぶりの高値を更新。英ポンドに対してはなんと史上最高値を付けました。




商品先物の買越残高は直近ピークから半減

 

コモディティ市場でも高インフレを受けた主要中銀の積極的な利上げが、商品需要の低迷につながるとの見方が強まり下落傾向が強まっています。投機マネーの流出も加速し、主要商品の先物の買越残高は直近のピークから半減しています。コモディティは実需を反映しやすいだけに、世界的な景気減速への懸念が高まっていることを示しています。

 

主要中銀のタカ派姿勢がリセッション懸念におびえる市場を揺さぶる中で、金融市場では「弱気心理が尽きるには程遠い」との声が聞かれています。ネッド・デービス・リサーチ(NDR)のモデルによると、世界経済がリセッションに陥る確率は今週、「98%」を上回る水準に上昇し、深刻なリセッションのシグナルが点灯していると言います。


 

 

原油は9カ月ぶり安値 金は2年5カ月ぶり安値

 

WTI原油先物相場は26日に一時は76.25ドルと期近物として1月以来約9カ月ぶりの安値を付けています。「原油相場の変動率は高まったままで、目先は下げが続く可能性が高い」「テクニカル的には昨年12月に付けた62ドル台までサポートがなく下値不安が残る」との指摘がありました。

 

出所:Trading View



また、COMEX金先物相場は28日に一時1622.2ドルまで下落し、中心限月として2020年4月以来の安値を付ける場面がありました。FRBによる金融引き締めを背景に、ドル先高観は根強く、金の上値は重いと予想する向きは多いようです。


 出所:Trading View

 

 

ただ、28日のマーケットでは米国株をはじめコモディティや仮想通貨が大きく反発しています。英中銀(BOE)が英国債相場の急落を受けて「28日から市場安定を確保するため英国債の一時的な買い入れを実施する」「10月初旬から予定していた国債の市場売却を同月末に延期する」と表明したため、英国債が急騰(金利は急低下)。世界的な金利上昇が一服し、これまでのリスク・オフ=金利上昇・株安・ドル高の巻き戻しが進んだ格好です。

 

 出所:Trading View


28日の米国株式市場では、多くの機関投資家が運用指標とするS&P500種株価指数が大きく反発。前日の27日には年初来安値を更新していましたが、この日は大陽線となっています。少しだけ、今後に期待できる大幅反発ではありますが・・・。

 

 

 

10月に向けてまだまだシートベルトの着用は必須


もっとも、BOEの臨時措置については見方がいろいろ別れるところです。これから週末にかけてマーケット(アナリストやトレーダー)の意見が出てくるとは思いますが、財政出動&利上げ&債券買い入れ(QE)はかなりチグハグ。現時点ではリスク・オフの巻き戻しにつながっていますが、来週以降も続くかどうかは不明です。

 

ある市場関係者からはBOEの臨時措置について「市場が混乱すれば中銀が支援してくれるとの期待を醸成してしまった。FRBに対しても同様で、来年の利下げなどを織り込む動きになれば、再度FRBにとって好ましくない楽観的な動きになってしまう可能性がある」との声が聞かれました。


米国の大手ベンダーは「QE=量的緩和でもなくQT=量的引締でもなく、QC(Quantitative Confusion)=量的混乱」との皮肉な言葉を伝えていました。

 

今週は月末・四半期末ということで、特殊なフローが出るため、方向感が定まらない可能性もありますが、来週からの10月相場に向けては、まだまだシートベルトの着用が必須です。




この連載の一覧
「価格推移へのコメント」を担って実感したプラチナの価値
第54回「小麦の国際価格、急伸 今後もロシア・ウクライナ関連ニュースに注目」
第53回「米国のインフレ鈍化鮮明に 株価は上昇・コモディティは反発傾向」
第52回「トレード準備 まずは口座開設」
第51回「金(ゴールド)、価格調整進む 3カ月半ぶり安値」
第50回「穀物相場は反発傾向 各国中銀は相次ぎ利上げ」
第49回「NY金相場は反発 FRBのタカ派姿勢はブラフ(はったり)!?」
第48回「小麦の国際価格、下げ渋り 2年半ぶり安値から戻す」
第47回「米国株相場は堅調 ただコモディティ関連ETFを見てみると」
第46回「ゴールドマン、コモディティ相場に強気見通し」
第45回「金(ゴールド)、再び2000ドル割れ」
第44回「小麦の国際価格、下落継続 2年ぶりの安値」
第43回「国内外の金(ゴールド)価格、伸び悩み 底堅い基調は続く?」
第42回「原油価格、今週は下落 100ドル突破の声と下落継続の声」
第41回「国内ガソリン価格、4週連続値上がり! 軽油も灯油も値上がり!」
第40回「原油価格、急反発 先行きに強気な見方多い」
第39回「金(ゴールド)、2000ドル近辺で高止まり マーケットの不安は本当に薄れたのか?」
第38回「金(ゴールド)、2000ドルの大台を突破!!! 約1年ぶり高値」
第37回「原油価格が約1年3カ月ぶり安値 昨年高値からほぼ半値」
第36回「小麦の国際価格、1年8カ月ぶり安値 なお政府の売渡価格は5%値上げ」
第35回「小麦価格、1年半ぶり安値 世界の食料価格も21年9月以来の低水準」
第34回「コーヒー(coffee)、反発傾向を強める これ以上の価格上昇でコーヒー値上げは困る」
第33回「欧州ガス先物価格の下落顕著、21年9月以来の安値 ガス代は値下げへ」
第32回「WTI原油先物、しばらくは横ばい推移か!?」
第31回「金(ゴールド)、FOMCで急騰しECBで急落」
第30回「ゴールドマン・サックス『今年はコモディティの年になる』と予想」
第29回「センチメントに踊らされるマーケット 金(ゴールド)は着々と大台目指す」
第28回「米インフレ鈍化でドル安 金(ゴールド)には追い風」
第27回「今日は年内最終取引日 今年1年間のパフォーマンスは?」
第26回「コーヒー(coffee)、下落一服も今年高値からは35%安の水準 薄いコーヒーはもう飲まなくて良い!?」
【コモディティという世界】第25回「コーヒー(coffee)、下落傾向が続く 今年高値からは40%超の急落 国内価格にも影響か!?」
【コモディティという世界】第24回「小麦は1年2カ月ぶり・原油は1年ぶり安値 疲弊した家計負担は軽減するか!?」
【コモディティという世界】第23回「円安ドル高は終了か!? Thank you 財務省! Thank you パウエル!」
【コモディティという世界】第22回「WTI原油先物価格、今週は乱高下 一時は10カ月ぶり安値を付ける」
【コモディティという世界】第21回「コモディティ市場はさえない1週間 原油相場はほぼ2カ月ぶり安値」
【コモディティという世界】第20回「やはりドルは天井を打ったのか!? 金(ゴールド)には追い風!!」
【コモディティという世界】第19回「重要イベントの相次いだ今週、小麦価格は乱高下 今後は如何に!?」
【コモディティという世界】第18回「ドルは天井を打ったのか!?金や原油などコモディティには追い風」
【コモディティという世界】第17回「電気代は来春以降、2割から3割値上がりする可能性!?」
【コモディティという世界】第16回「投資は余裕資金で! 今こそPayPayポイントで金(ゴールド)投資 」
【コモディティという世界】第15回「FXとも密な関係 南アフリカの通貨ランドとプラチナ」
【コモディティという世界】第14回「主要中銀の金融引き締めでリスク資産下落 シートベルトの着用は必須」
【コモディティという世界】第13回「私が考える最強のコモディティ関連ETF『四天王』・その2」
【コモディティという世界】第12回「私が考える最強のコモディティ関連ETF『四天王』・続」
【コモディティという世界】第11回「コモディティ関連ETF『四天王』「ククク…奴は四天王の中でも最弱」と言われるあの銘柄は?」
【コモディティという世界】第10回「投資の神様が保有するコモディティ関連銘柄」
【コモディティという世界】第9回「秋の値上げラッシュ迫る!すぐにでもコモディティに投資したいが商品多すぎ・・・」
【コモディティという世界】第8回「値上げラッシュの秋迫る!岸田首相は小麦の売渡価格据え置きを指示」
【コモディティという世界】第7回「金(ゴールド)の主な価格変動要因は?」
【コモディティという世界】第6回「金(ゴールド)の「調整局面」は終了か?「台湾有事」への懸念高まる!?」
【コモディティという世界】第5回「原油の価格変動要因って何?最高値を付ける可能性はあるの?」
【コモディティという世界】第4回「石油はあと30年から50年で枯渇する!?」
【コモディティという世界】第3回「そもそもコモディティ(商品)って何(続)」
【コモディティという世界】第2回「そもそもコモディティ(商品)って何?」
【コモディティという世界】第1回「原油高騰と円安で物価上昇!家計を直撃 どうする?」

為替情報部 アナリスト

中村 知博

鹿児島出身。2007年国際金融情報サービス会社に入社。 外国為替取引会社・金融機関への24時間リアルタイム金融情報サービスの為替記者として従事。市場動向や見通しなどを解説する動画サービスの業務も経験。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

中村 知博の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております