コモディティという世界

【コモディティという世界】第2回「そもそもコモディティ(商品)って何?」

インフレは予想よりも長引く!?


米金融大手ゴールドマン・サックスのエコノミストは今月に入り、顧客リポートでインフレ率予測を引き上げ、「この強い物価上昇は数十年前の記録的なインフレに似ている」と警告しました。「2度にわたる石油危機の影響、世界的な農作物不作等により輸入価格が急騰した1970年代に匹敵し始めている」と言います。つまり、現在のインフレが以前の予想よりも長引くと予測しているのです。

 

世界的にインフレが進む中で、私たちの生活を守るためには今あるお金を守り、さらに増やす必要があります。大事に貯金をするだけではお金の価値は目減りしていきます。インフレ物価が上昇すると、同じ金額で買えるモノやサービスの量が少なくなるため、お金の価値が目減りすることになるからです。





そこで、前回は「コモディティ(商品)を中心に株や債券などあらゆる手段を使ってお金を増やすことを提案していきたい」と述べましたが、そもそも「コモディティ」とは何なのでしょうか?




コモディティとは「実物資産」とも言われる


コモディティ(Commodity)とは、【商品】のことを表す言葉で、コモディティ投資とは原油やガソリンなどのエネルギー、金やプラチナなどの貴金属、トウモロコシや大豆などの穀物などに投資することをいいます。コモディティは現物に価値がある実物資産とも言われていますが、近年では商品指数に償還価額が連動する債券などに投資する投資信託など、投資の方法に選択肢が増えています。


また、一般的には直物市場と先物市場があります。コモディティの即時受渡しを必要とする場合は直物市場で取引します。コモディティは取引量が膨大かつ、世界的な規模で取引が行われているため、毎回検品を行わなくても迅速に売買が可能となるように標準化が図られています。


一方、先物市場では通貨や株価指数などと同様にコモディティの先物取引が行われています。対象資産は取引所で物理的に取引されるわけではなく、売り手と買い手がある時点で合意した金額で、将来の特定の期日に一定量の商品を受け渡すことを約束します。先物契約は期日前に反対売買して決済することが可能なため、ほとんどの場合、実物を所有することはありません。基本的に先物取引は大半が投機やヘッジ目的です。


なお、コモディティは株や債券といった伝統的な金融資産と違う動きをすることから、分散投資効果が期待されるため、オルタナティブ資産(代替資産)の投資対象の一つとしても市場が拡大しています。




価格の変動要因


では、分散投資効果が期待されるコモディティの価格はどのような要因で動くのでしょうか?

 

一般的に「投資」という言葉からは株式などを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、株式とコモディティでは価格を決める要因が大きく異なってきます。当然、ある程度共通した要因はありますが、コモディティは最終的には消費されたり、原材料になったりして「モノ」自体がなくなってしまいます。

 

そして、コモディティは消費された分がすぐに供給されるわけではありません。原油や天然ガスは採掘して輸送する必要がありますし、小麦やトウモロコシなどの農産物は育つまでに時間がかかります。需要があるにもかかわらず、商品自体(供給)がなければ価格は上昇します。


コモディティの価格は需要と供給のバランス、将来的な需要の見通しによって変動すると言えるでしょう。そして、その需要と供給のバランスに影響を与える要因が「代替商品」「金融政策」「政治」「景気」「季節」「天候」などになります。



※出所:Trading View



代替商品

代替商品が登場するとこれまでの商品に対する需要が減少する場合があります。近年では、再生可能エネルギーが台頭したことで、石油や天然ガスへの投資額は減少傾向にあります。また、効率的なサプライチェーンや迅速な生産ラインを持つ企業などの登場は、生産や流通コスト軽減により業績を上げ、投資先として魅力的な存在となることがあります。

 

金融政策

米連邦準備理事会(FRB)など主要各国の中銀は新型コロナウイルスの危機対応として「金融緩和」を始めましたが、これが投機マネーや緩和マネーと呼ばれ、株価やコモディティなどの上昇要因となりました。そして2022年は新型コロナ禍への対応で金融緩和を進めた局面から一転して、金融政策正常化を迫られる国が増えています。

 

政治

戦争や輸入関税の引き上げなど、輸出入に影響を与えるような政治的な出来事は商品価格に影響を与えます。

 

景気

景気が悪いときは商品需要が低下し価格が下落しやすい傾向にあります。半面、景気が良いときは需要が高まり、価格の上昇につながる可能性があります。

 

季節

特に、農産物は生産や収穫に影響を与える季節的な要因に依存しています。収穫予測など背景に価格が上昇した場合は、収穫後下落する傾向にあります。

 

天候

異常気象や自然災害は天然素材の生産量や輸送に影響を与えるため、価格が変動する要因となります。

 


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第54回「小麦の国際価格、急伸 今後もロシア・ウクライナ関連ニュースに注目」
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為替情報部 アナリスト

中村 知博

鹿児島出身。2007年国際金融情報サービス会社に入社。 外国為替取引会社・金融機関への24時間リアルタイム金融情報サービスの為替記者として従事。市場動向や見通しなどを解説する動画サービスの業務も経験。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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