小麦の国際価格、2021年7月以来1年8カ月ぶり安値
足もとで小麦の国際価格の下落が加速しています。国際指標である米シカゴ商品取引所の小麦先物(期近)は昨年3月に1ブッシェル=13.6ドルと史上最高値を更新しましたが、そのあとは次第に売りが優勢となっています。今週遂に7ドルを割り込み、約1年8カ月ぶりの安値を更新しました。
指標となる米シカゴ市場の小麦先物は9日、一時1ブッシェル6.64ドル前後と2021年7月以来の安値を更新。低価格で在庫が多いロシア産が出回り、価格を押し下げています。8日の需給報告は国内、世界在庫共に予想をやや下回りましたが、影響は限定的。米連邦準備理事会(FRB)の積極的な金融引き締め観測を背景としたドル高進行を嫌気した投機的な売りも出ているようです。
NY小麦先物の日足チャート
出所:Trading View
なお、市場では「食料危機の火種がくすぶり続けている」との声は根強く聞かれます。小麦を巡っては「ウクライナでの不作が長期化しそうなことに加えて、世界の輸出量に占めるロシア産の比率が上昇し市場は不安定になっている」といいます。
農作物の生産に欠かせない肥料の調達難も広がっており、供給が細る局面では各国自国内の供給を優先し輸出を絞るため、「価格高騰・需給逼迫リスク」が再燃する可能性もあるようです。
輸入小麦の売り渡し価格、値上げ幅は5.8%に
4月以降、政府が輸入した小麦を製粉会社などに売り渡す価格について、ロシアのウクライナ侵攻による価格高騰の影響が大きかった期間を除き、直近の半年間の買い付け価格で算定すると値上げ幅は5.8%になると報じられています。1トンあたりの価格は7万6750円。
ルール通りに算定すれば値上げ率は13%ほどになりますが、特別の対応を取るといいます。パンや麺類など幅広い食品の原料となる小麦の値上げを抑えて、家計への負担を和らげる狙いです。
国民生活に配慮して
外国産食糧用小麦の政府売渡価格は、穀物の国際相場や海上運賃、為替等の動向を反映した買付価格に連動して、4月と10月の年2回改定されています。昨年4月には17.3%引き上げられ、同年10月は据え置かれました。従来は過去半年間の買い付け価格を受渡価格に反映していましたが、ロシアのウクライナ侵攻による価格急騰に配慮して、価格を平準化するため、今年4月の受渡価格は過去1年間の買い付け価格に基いて決定します。
これに基づけば、10月の受渡価格は13%の引き上げとなりますが、国民生活に配慮して、国際価格が異常に高騰した時期(昨年4月から9月)を除いて算出することで、5%程度の値上げに抑えることが可能となるようです。農水省はこの算定をもとに政府内や与党と詰めの調整を行ったうえで、近く正式に発表する見通しです。
政府の物価高対策、それほど影響は大きくない!?
しかしながら、小麦の政府売渡価格の引き上げ抑制については、「物価高対策としては、それほど影響力は大きくない」との声が聞かれています。「昨年4月に売渡価格が17.3%引き上げられた際、農水省は消費者物価に与える影響は僅か+0.016%程度と試算。小麦関連製品の小売価格に占める原料小麦代金の割合が、大きなものを取りあげても食パンの8%、小麦粉の29%などにとどまる。政府売渡価格の引き上げ分が最終製品に完全に転嫁されても、消費者物価全体への影響は限られる」(日銀審議委員を務めた野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)
つまり、政府売渡価格の引き上げ幅を抑制しても、それが消費者物価全体に与える影響も小さいのです。効果が薄い物価抑制策で政府の財政負担が一段と高まった場合、その負担が誰に転嫁されていくのか気になります。政策の財源としてどこかに『埋蔵金』でもないものか。