金は国籍のない通貨
前回の記事では、「金は国籍のない通貨」と呼ばれ、銀や白金、パラジウムなど他の貴金属とは異なり、「通貨」としての側面があり、世界情勢によっても価格が変動します、と書きました。そして、金の価格変動要因には景気やインフレ動向、株式や債券の動き、政治や経済などの国際情勢、そして鉱山会社の供給事情やヘッジ戦略、ファンドや年金基金の動向など多岐にわたると指摘しました。
※出所:Trading View
金の主な価格変動要因
(1)景気動向
世界の景気動向と金価格との関係は大別すると次の3つです。
一つ目は、景気拡大が金の工業用需要を増大させて、金の上げ材料とみなされることです。景気が縮小または後退すると生産活動が落ち込んで、金の需要が後退し価格の下げ材料とみなされます。
二つ目は、景気拡大で個人の可処分所得が増加し、宝飾品や投資用としての金需要を押し上げることです。逆に景気後退によって可処分所得や資源価値が減少すれば、金の宝飾品や投資用として需要が減り、金価格を押し下げる要因となります。
三つ目は、景気拡大でインフレが高進したり、インフレ懸念が高まったりすると、インフレ・ヘッジとして、金投資意欲が高まり金価格を押し上げます。逆に景気縮小や後退によってデフレが発生したり、ディスインフレになったりすると、金投資意欲が後退し金価格を押し下げます。
(2)為替要因
ドル建ての金価格にとって、ドル相場の動向には大きな影響を受けます。ドルの上昇、あるいはドル高見通しは極めて悪材料となります。半面、ドル安は金価格にとって好材料となります。
ドル高→ドル建て資産(米債券・株式・不動産など)の価値が増大するため、これらを購入しようとする動きが助長されて、投資資金が金から流出します。ドル安のときは、この反対を見越したり、期待したりして投資資金が金に流入します。また、ドルの上昇で米国の輸入コストが低下した結果、米国内の輸入物価が低下して、インフレ圧力が後退。これによってインフレ・ヘッジとしての金の魅力が低下します。
(3)金利動向
金利の上昇は金利の付かない金には売り要因とみなされます。一方、金利の低下は金利を生まない資産である金の相対的な価値の押し上げにつながります。とくに、米国の金利低下でドル安が進むと、ドルの代替資産とみなされる金の魅力を高めて金価格を押し上げる要因となります。
ただ、金利=債券相場と金の関係を見るときは、資金の流れを考慮する必要が出てきます。投資家にとって金よりも債券の方が魅力的と映る場合は、同じく「安全資産」とされる金が売られて、同じく「安全資産」とされる債券が買われる(金利は低下)可能性があります。
(4)株式市場の動向
株式市場は景気の重要な先行指標として見られているため、株価の上昇は景気の先行きにポジションと受け止められて、個人の可処分所得増加や工業用需要の拡大、さらにはインフレ上昇懸念を高めるため、金価格の上昇要因と考えられています。
ただし、株価の上昇は投機資金の株式市場への流入を意味するため、金にとっては上値を圧迫する要因に、逆に株価の下落は投機資金の株式市場からの流出を意味するため、金の支援材料とみなされるケースが増えています。株高や株安が「安全資産」とされる金の売り材料・買い材料となる場合はあります。
(5)公的機関の動向
各国中銀や国際機関による金の購入や売却は金価格の変動要因として市場に与えるインパクトが大きく、「最大の変動要因」と指摘する市場関係者は多いようです。
(6)アジアや中東地域の需要動向
アジアやインド地域は世界最大の金消費地で、2014年には同地区の宝飾需要が世界の76%を占めています。特に中国とインドの消費は際立っています。「アジア人の金嗜好の強さ」は世界的に有名ですが、中国やインドといった膨大な人口を抱える国は1990年代に入ってから金需要が大きく伸びています。両国はともに目覚ましい経済成長を遂げている国で、同時に金取引の自由化が進んでいます。
マネーゲームの場
以上のように、金価格は様々な要因で動くことが分かりました。「有事の金」、「安全資産」と言われることの多い金ですが、近年では株式市場のみならず、金融・通貨市場や現物や先物の商品市場がマネーゲームの場としての性格を強めていることから、これまで言われていた仮説や格言通りにはならないことには留意が必要ですね。