コモディティという世界

第37回「原油価格が約1年3カ月ぶり安値 昨年高値からほぼ半値」

原油価格の下落が加速 約1年3カ月ぶりの安値

 

足もとで原油価格の下落が加速しています。ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)4月限は今週、1バレル=65.65ドルと2021年12月以来およそ1年3カ月ぶりの安値を付けました。米国の銀行破綻に続き、欧州ではクレディ・スイス・グループの経営不安が高まり、欧米株式相場が軟調に推移。価格変動リスクの高い原油先物が売られました。金融不安で銀行の融資が減少し、世界景気に悪影響が出るとの連想から、原油先物に売りが出た面もありました。

 

WTI原油先物価格の日足チャート

出所:Trading View

 

 

 

市場関係者からは、欧米の金融不安について「大手銀行によるデレバレッジ(債務圧縮)を引き起こし、石油への投資を減らし、相場が他のリスク資産よりも大きく下落する原因となっている」との声が聞かれています。今週発表の米エネルギー情報局(EIA)の週間の米石油在庫統計では、原油在庫が市場予想以上に増加。足もとの需給の緩みも売りを促したようです。

 

昨年ロシアによるウクライナ侵攻後に付けた約13年8カ月ぶりの高値130.50ドルからほぼ半値となったことになります。

 

 

 

景気や物価に先行する指標として注目の「CRB指数」

 

コモディティに興味がある、ないにかかわらず、金融関係者やトレーダーの多くがウォッチ・リストに加えている指数があります。それがこの「CRB指数」。下のチャートはCRB指数のここ5年の動きです。

 

CRB指数の日足チャート

出所:Trading View

 

 

 

CRB指数は米国のNYFEで取引されている代表的な商品先物指数のひとつです。正式には「ロイター・コアコモディティーCRB指数(Thomson Reuters/CoreCommodity CRB Index)」と呼ばれており、米英の各商品取引所の先物取引価格から算出される国際商品指数です。この指数は1952年に米国のCRB社により28品目の指数として開発され、その後、構成品目の入れ替えなどの修正が行われています。2005年9月の修正時に「ロイター/ジェフリーズCRB指数」という名称になりました。世界的な物価や景気の先行指標、特にインフレ動向の先行指標として注目度が高い指数です。

 

CRB指数は幅広い商品で構成されているが、中でもアルミニウムや銅など、製品原料として使用される商品を多く含むため、景気や物価に先行する指標として注目しているよ」なんて声は株式・FXトレーダーなどからも多く聞かれています。

 


 

ある市場関係者からは「CRB指数はかなり下がったが、米連邦準備理事会(FRB)は112あたりまで下げたいのか?」と揶揄する声も。ちなみに、112は2020年4月に付けた安値です。このとき、日本では新型コロナウイルス感染拡大による「緊急事態宣言の発令」、「総額25兆円を超える規模の政府補正予算成立」などの出来事がありました。

 

 

 

欧米金融機関の経営不安が幾分和らぐ

 

昨日16日は重要なイベントがありました。欧州中央銀行(ECB)が理事会で政策金利を0.50%引き上げることを決めたと発表。声明では「現在の市場の緊張を注意深く監視している」としながらも、インフレ抑制を優先する姿勢を崩しませんでした。市場では金融システムが不安定化するとの警戒が高まり、リスク回避の動きが強まる場面もありました。

 


ただ、NY市場では「JPモルガン・チェースやモルガン・スタンレーなど大手銀行は経営危機に陥っている米地銀ファースト・リパブリック・バンクへの支援策を検討」との報道が相次いで伝わり、実際に米銀11行が合計300億ドルの無保険預金を米地銀ファースト・リパブリック・バンクに預け入れると発表しました。

 

これを受けて、欧米金融機関の経営不安が幾分和らぐと、一時300ドル超下落したNYダウは400ドル超上昇。WTI原油先物相場も4日ぶりに反発しています。16日の終値は前日比0.74ドル高の68.35ドル。

 

サウジアラビアからの報道で「アブドルアジズ同国エネルギー相とロシアのノバク副首相はこの日会談し、原油市場の安定維持に取り組み、『OPECプラス』による現行の減産方針を堅持する方針を確認した」と伝わったことも原油反発につながったようです。


原油相場の今後については、このところ話題にあがっている欧米金融機関の経営不安を煽るようなニュース、そしてOPEC絡みの報道に注意していく必要がありそうです。

 

この連載の一覧
「価格推移へのコメント」を担って実感したプラチナの価値
第54回「小麦の国際価格、急伸 今後もロシア・ウクライナ関連ニュースに注目」
第53回「米国のインフレ鈍化鮮明に 株価は上昇・コモディティは反発傾向」
第52回「トレード準備 まずは口座開設」
第51回「金(ゴールド)、価格調整進む 3カ月半ぶり安値」
第50回「穀物相場は反発傾向 各国中銀は相次ぎ利上げ」
第49回「NY金相場は反発 FRBのタカ派姿勢はブラフ(はったり)!?」
第48回「小麦の国際価格、下げ渋り 2年半ぶり安値から戻す」
第47回「米国株相場は堅調 ただコモディティ関連ETFを見てみると」
第46回「ゴールドマン、コモディティ相場に強気見通し」
第45回「金(ゴールド)、再び2000ドル割れ」
第44回「小麦の国際価格、下落継続 2年ぶりの安値」
第43回「国内外の金(ゴールド)価格、伸び悩み 底堅い基調は続く?」
第42回「原油価格、今週は下落 100ドル突破の声と下落継続の声」
第41回「国内ガソリン価格、4週連続値上がり! 軽油も灯油も値上がり!」
第40回「原油価格、急反発 先行きに強気な見方多い」
第39回「金(ゴールド)、2000ドル近辺で高止まり マーケットの不安は本当に薄れたのか?」
第38回「金(ゴールド)、2000ドルの大台を突破!!! 約1年ぶり高値」
第37回「原油価格が約1年3カ月ぶり安値 昨年高値からほぼ半値」
第36回「小麦の国際価格、1年8カ月ぶり安値 なお政府の売渡価格は5%値上げ」
第35回「小麦価格、1年半ぶり安値 世界の食料価格も21年9月以来の低水準」
第34回「コーヒー(coffee)、反発傾向を強める これ以上の価格上昇でコーヒー値上げは困る」
第33回「欧州ガス先物価格の下落顕著、21年9月以来の安値 ガス代は値下げへ」
第32回「WTI原油先物、しばらくは横ばい推移か!?」
第31回「金(ゴールド)、FOMCで急騰しECBで急落」
第30回「ゴールドマン・サックス『今年はコモディティの年になる』と予想」
第29回「センチメントに踊らされるマーケット 金(ゴールド)は着々と大台目指す」
第28回「米インフレ鈍化でドル安 金(ゴールド)には追い風」
第27回「今日は年内最終取引日 今年1年間のパフォーマンスは?」
第26回「コーヒー(coffee)、下落一服も今年高値からは35%安の水準 薄いコーヒーはもう飲まなくて良い!?」
【コモディティという世界】第25回「コーヒー(coffee)、下落傾向が続く 今年高値からは40%超の急落 国内価格にも影響か!?」
【コモディティという世界】第24回「小麦は1年2カ月ぶり・原油は1年ぶり安値 疲弊した家計負担は軽減するか!?」
【コモディティという世界】第23回「円安ドル高は終了か!? Thank you 財務省! Thank you パウエル!」
【コモディティという世界】第22回「WTI原油先物価格、今週は乱高下 一時は10カ月ぶり安値を付ける」
【コモディティという世界】第21回「コモディティ市場はさえない1週間 原油相場はほぼ2カ月ぶり安値」
【コモディティという世界】第20回「やはりドルは天井を打ったのか!? 金(ゴールド)には追い風!!」
【コモディティという世界】第19回「重要イベントの相次いだ今週、小麦価格は乱高下 今後は如何に!?」
【コモディティという世界】第18回「ドルは天井を打ったのか!?金や原油などコモディティには追い風」
【コモディティという世界】第17回「電気代は来春以降、2割から3割値上がりする可能性!?」
【コモディティという世界】第16回「投資は余裕資金で! 今こそPayPayポイントで金(ゴールド)投資 」
【コモディティという世界】第15回「FXとも密な関係 南アフリカの通貨ランドとプラチナ」
【コモディティという世界】第14回「主要中銀の金融引き締めでリスク資産下落 シートベルトの着用は必須」
【コモディティという世界】第13回「私が考える最強のコモディティ関連ETF『四天王』・その2」
【コモディティという世界】第12回「私が考える最強のコモディティ関連ETF『四天王』・続」
【コモディティという世界】第11回「コモディティ関連ETF『四天王』「ククク…奴は四天王の中でも最弱」と言われるあの銘柄は?」
【コモディティという世界】第10回「投資の神様が保有するコモディティ関連銘柄」
【コモディティという世界】第9回「秋の値上げラッシュ迫る!すぐにでもコモディティに投資したいが商品多すぎ・・・」
【コモディティという世界】第8回「値上げラッシュの秋迫る!岸田首相は小麦の売渡価格据え置きを指示」
【コモディティという世界】第7回「金(ゴールド)の主な価格変動要因は?」
【コモディティという世界】第6回「金(ゴールド)の「調整局面」は終了か?「台湾有事」への懸念高まる!?」
【コモディティという世界】第5回「原油の価格変動要因って何?最高値を付ける可能性はあるの?」
【コモディティという世界】第4回「石油はあと30年から50年で枯渇する!?」
【コモディティという世界】第3回「そもそもコモディティ(商品)って何(続)」
【コモディティという世界】第2回「そもそもコモディティ(商品)って何?」
【コモディティという世界】第1回「原油高騰と円安で物価上昇!家計を直撃 どうする?」

為替情報部 アナリスト

中村 知博

鹿児島出身。2007年国際金融情報サービス会社に入社。 外国為替取引会社・金融機関への24時間リアルタイム金融情報サービスの為替記者として従事。市場動向や見通しなどを解説する動画サービスの業務も経験。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

中村 知博の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております