原油には買い戻しが先行
今週に入り、原油先物価格は買い戻しが優勢となっていましたが、昨日9日は上昇が一服。ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)3月限の終値は前日比0.41ドル安の1バレル=78.06ドルとなっています。
ただ、下げは限定的。今週の上昇分からすると“軽く下押しした程度”と言えそうです。今週の相場変動材料で一番重要だったのは、7日のパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長のエコノミック・クラブ・オブ・ワシントンDCのイベントでインタビュー内容。強かった米雇用統計を受けてもなお以前と大きく変わっていないとの見方から米利上げ長期化への警戒感が和らいで、株式など他のリスク資産とともに原油も買い戻されています。
WTI原油先物価格の1時間足チャート
出所:Trading View
パウエルFRB議長は7日のインタビューで、「今後も予想以上の強い経済指標が続く場合は政策金利の引き上げを検討する」と表明し、積極的な金融引き締め政策継続の必要性を改め て強調しましたが、マーケットはこの発言を想定ほど「タカ派的ではない」と受け止めたようです。この結果、リスク資産である石油にも買い安心感が広がりました。
また、この日の外国為替市場では対ユーロでドルが下落。ドル建てで取引される原油の支援材料となりました。さらにはトルコ南部のシリア国境近くで起きた大地震で、同地域の原油輸送停滞が需給の引き締まりにつながるとの見方も買い支えの材料となったようです。
さらには、5日から欧州連合(EU)がロシア産石油製品を禁輸するなど制裁を強化する見込みであることも原油相場の下値を支えているとされています。この日には、国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が中国需要の回復予想を示しており、中国の需要回復への期待は高まっています。
EIAが発表する原油在庫統計
一方、昨日9日の下げは8日発表の週間統計で米国の原油在庫が市場予想以上に増え、需給の緩みを意識した売りが要因だったと言われています。
8日に米エネルギー情報局(EIA)が発表した原油在庫統計では、戦略石油備蓄(SPR)を除く原油在庫が前週比240万バレル増の4億5510万バレルと、2021年6月以来の高水準を記録。また米国の原油生産高は日量1230万バレルとなり、2020年4月以来の高水準となりました。これを受けて、需給逼迫懸念が後退し原油先物への売りが優勢となりました。ガソリン在庫やヒーティングオイルなどの在庫も増加幅が予想を上回っています。今週に入り、原油先物相場は大きく値を上げていただけに、目先の利益を確定する売りも出やすかったようです。加えて、米国株相場の下落が株式と同様にリスク資産とされる原油先物の売りに波及した面もありました。
なお、米エネルギー情報局=EIA(Energy Information Administration)が発表する在庫統計は、米国の原油、ガソリン、混合ガソリン、留出油(ディスティレート)などの石油製品の在庫統計です。前週金曜日時点の数値を毎週水曜日に発表しています。ただ、米国の祝日の関係で木曜日に後ずれすることもあります。発表時間は日本時間0時30分(冬時間)。3月以降の夏時間は日本時間23時30分となります。
原油在庫は国家備蓄分を除いたものも公表されます。東海岸や中西部など地域ごとの在庫も合わせて発表され、なかでもNYMEXで取引されているWTI原油先物の現物受渡場所となる米オクラホマ州クッシングの在庫が重要視されています。
出所:EIAホームページ
WTI原油先物、しばらくは横ばい推移か
WTI原油先物相場は昨年3月に130ドル台を付けて以降下落傾向にあり、12月には70.08ドルまで下落、2021年12月以来の安値を更新しています。今年に入ると72~82ドルでのもみ合いとなっています。目先の材料に一喜一憂する非常に不安定な相場とも言えますが、こうなってくると、相場の先行きを読むのは非常に困難。何かのきっかけで相場が上サイドか下サイドに抜ける、ブレイクアウトを待つ状況になっています。市場関係者からは「基本的に、強弱材料が交錯しており、不安定で方向感の出にくい状況。今後もおおむね横ばい圏内での推移が予想される」との声が聞かれています。
WTI原油先物価格の日足チャート
出所:Trading View