小麦の売渡価格、10月以降は据え置きに
岸田文雄首相は今週、「物価・賃金・生活総合対策本部」で、製粉会社に政府が売り渡す輸入小麦の価格を10月以降も据え置くよう指示しました。首相は「対策を講じなければ10月以降、今年前半の国際価格の高騰を反映して2割程度価格が上昇する」と説明。野村哲郎農相に具体策の検討を指示しました。
日本の小麦自給率は17%にとどまっており、大部分を輸入に頼っていますが、輸入小麦は政府がまとめて買い付けて製粉業者などに売り渡しており、売渡価格は毎年4月と10月に買い付け価格をもとに決定されます。
今年4月には17.3%引き上げられ、1トンあたり平均7万2530円と2008年10月の7万6030円に次ぐ過去2番目に高い水準となりました。北米での不作が主因で、ウクライナ情勢の影響は10月から本格的に反映される見通しでしたが、輸入小麦はパンや麺類などの原料となっており、売渡価格の上昇は影響が大きく、据え置くことで家計の負担軽減を図る狙いがあります。
外国産食糧用小麦の政府売渡価格は、穀物の国際相場や海上運賃、為替等の動向を反映した買付価格に連動して、4月と10月の年2回改定されています。
出典:農林水産省
小麦のカロリーベースの自給率は17%しかない!?
日本の食料消費において麦が占める割合を見ると、2019年度のカロリーベースの食料自給率は38%であり、小麦については17%となっています。
出典:農林水産省
日本は麦の需要量の約8割を外国産麦の輸入で賄っています。
国内産食糧用麦は民間流通により取引されており、外国産食糧用麦は政府が国家貿易により計画的に輸入し、需要者に売り渡しています。また、米とは異なり、最終的にパンや麺として消費されるため、流通過程において各種の加工工程を経ています。
小麦は、主に製粉企業が製粉して小麦粉にし、その小麦粉を原料として二次加工メーカーがパン、麺、菓子等を製造しています。
小麦の国際需給と国際価格の動向
小麦の国際価格は、主産地である北米や豪州、欧州・黒海沿岸地域等における天候及び作柄の変化に、これまで大きく影響を受けています。また、海上運賃や為替(円安)の影響も受けています。
外国産食糧用麦は、国内産食糧用麦で量的又は質的に満たせない需要分について、政府が国家貿易により計画的に輸入し、需要者に売り渡しています。現在の主な輸入先国は米国、カナダ、豪州の3カ国。外国産食糧用小麦の輸入量は、国内産小麦の作柄や輸出国における輸送状況等により変動し、近年は470-520万トン程度で推移しています。
出典:農林水産省
小麦の国際価格の推移を見ると
2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、小麦の国際価格は急騰しました。ウクライナ情勢の緊迫で小麦の供給が減るとの警戒感が高まり、小麦の国際価格は今年3月に約14年ぶりに史上最高値を更新。国際指標である米シカゴ商品取引所の小麦先物(期近)は1ブッシェル=13.6ドルと2008年2月の高値(13.4ドル)を上回りました。
出所:Trading View
ウクライナは「世界でも恵まれた穀倉地帯」と言われ、ロシアとウクライナは欧州を支える穀倉地帯。国際食糧政策研究所によると、ロシアとウクライナが輸出している食糧はカロリーベースで世界の12%を担っているといいます。世界の市場に出回っている小麦の約3分の1はロシア産かウクライナ産。このような背景もあり、当初、「世界は食料危機に陥りつつある」との声が多く上がりました。
ただ、そのあとは反落し今月に入ると7.52ドル付近まで値を下げています。3月の史上最高値からは4割超の下落となっています。ウクライナの港からの穀物輸出再開で同国とロシアが合意。その後、輸出再開が順調に進んでいるとの観測から、小麦の供給不足が改善するとの期待で売りが優勢となったようです。
出所:Trading View
日本の小麦価格上昇リスクは依然として高い
もっとも、ロシアの主要な輸出穀物は小麦だけではなく、大麦やトウモロコシなどもあり、生産・輸出大国です。また、地球温暖化による穀物の供給への不安は残ります。さらに日本に流通する小麦を含む穀物全般、最近の急激な円安と海上輸送費・船賃の値上がりが相まって、一段の価格上昇リスクが高まっています。
全国有数の小麦の産地である群馬在住の私にとって、パスタをこよなく愛する私にとって、国内小麦価格上昇リスクは看過できません。
写真提供:生パスタの製造&販売コナリエ
なお、地球温暖化は農業生産に対して、CO2の濃度上昇による収量増加というプラス面がある一方、気温の上昇による農地面積の減少や異常気象の頻発による生産量の減少などのマイナスの影響を及ぼす懸念があるとされています。(農林水産省)
秋の値上げ、8000品目を超える!?
春以降に急速に進んだ円安の影響などを受けて、8月は主要食品メーカーだけでも月別で今年最多の2600品目超の食品の値上げが予定されています。しかしながら、9月から10月には8000品目を超える値上げが既に予定されており、「値上げラッシュ」は終わりが見えません。
帝国データバンクによると、「国内でも多くの物品で値上がりが続く中、食品各社でも年初に比べて価格改定への抵抗感は低下。躊躇なく機動的に値上げを行う企業・品目も足元では出てきており、急激に進む円安など、コスト高を背景に価格改定を行うケースは引き続き増加していくと予想。再値上げ・再再値上げといった動きも含めて、値上げは8月中にも年内累計2万品目を超える」といいます。
リスクヘッジに何を買えば良いのか?
日本の小麦価格上昇リスクが高いことは十分に分かりました。
いえ、小麦だけに限ったことではありません。第1回の記事から申し上げている通り、世界的にインフレが進む中で、私たちの生活を守るためには今あるお金を守り、さらに増やす必要もあります。大事に貯金をするだけではお金の価値は目減りしていきます。「インフレ」=物価が上昇すると、同じ金額で買えるモノやサービスの量が少なくなるため、「お金の価値が目減りする」ことになるからです。
そのような中で、「早速、小麦を中心に農産物に関連した金融商品に投資をしよう!」と思っても、「商品多すぎ・・・」問題もあります。
農産物に関連した国内株やETF(上場投資信託)、ETN(上場投資証券)。投資信託に先物やCFDなどなど。昨今、我々のような一般投資家にとって非常にありがたいことに、投資で収益向上を目指すのに充実した環境であると言えます。
ということで、次回は農産物関連の金融商品について書きたいと思います。