前回のホテル・前編では、ホテルREITを見る上での注目指標(ADR、客室稼働率、RevPAR)と、コロナ禍でこれらの指標がどう推移したかについて、インヴィンシブル投資法人(8963)のデータをもとに見ていきました。後編では、投資口価格や分配金の推移を整理しながら、ホテルREITの特徴について解説します。
投資口価格は2020年以降は戻り歩調
以下は、ホテル系REITのジャパン・ホテル・リート(8985、以下JHR)、インヴィンシブル(8963、以下INV)、森トラスト・ホテル・リート(3478、以下森トラH)、星野リゾート・リート(3287、以下星野RR)の4銘柄のチャートとなります。
2019年後半からの週足チャートですが、いずれも似たような形状となっており、2020年の3月に安値をつけた後は、戻り歩調にあります。
2020年の2月から3月にかけてはホテルREITに限らず、株式などでも多くの銘柄が急落しました。新型コロナウイルスに関するニュースが連日で報じられる中、これはただごとではないとの見方が強まり、総売り状態となりました。
2020年3月25日に、JHRが20.12期の業績および分配金予想を未定にすると発表しています。その後、4月24日にはINVも20.6期と20.12期の業績および分配金の予想を未定としました。ただ、そういったリリースに投資口価格は弱い反応を示したものの、トレンドが大きく悪化するほどの動きとはなりませんでした。各種報道からレジャー目的でホテルを使える状況でないことが周知されてきましたので、3月中旬までに一気に悪材料に対する織り込みが進んだものと推測されます。
コロナ前の水準を上回っている星野RR
この4銘柄の中で星野RRに関しては、コロナで急落する前の水準を回復しています。ポートフォリオの中にはメディアで取り上げられることも多い「星のや軽井沢」なども含まれていますが、この宿泊施設では、テレビやPCなどから離れて自然の良さを味わうレジャーを提案しています。ブランドイメージが、コロナ禍の「密を避ける」という需要にもうまくマッチできたと言えます。
また、同REITはコロナ禍でも積極的な資金調達を行い、星野リゾートグループの運営物件比率を高めるなど、攻めの経営を行っています。
分配金は回復途上
分配金についても見ていきましょう。以下は、先ほど取り上げた4つのREITの分配金の推移となります。コロナの影響を受ける前の期と、それ以降を抜粋しています。なお、数あるREITの中で、JHRは唯一決算期が年1回(12月決算)となっています(2022年9月26日時点)。
程度の差こそあれ、どのホテルREITもコロナで分配金の水準を大きく落としたことがわかります。ホテルに関しては、完全オフの際に使うリゾートタイプもあれば、出張などで使うシティホテルタイプもありますので、前者の割合が高ければ、より落ち込みも大きくなります。その分、この先の回復余地も大きいと言えます。
なお、森トラHでは21.8期の分配金が高水準となっていますが、この期には不動産売却益の計上による貢献がありました。
訪日客需要の取り込みが重要に
ホテルREITに関しては、まだ分配金水準がコロナ前に戻っておらず、回復期待が高い状態がしばらく続くことが予想されます。ただ、既に投資口価格がコロナ前を上回っている星野RRは、その期待が既にある程度織り込まれているとも言えますので、分配金がコロナ前の水準を回復した後の成長シナリオが投資口価格をみる上でのポイントとなるでしょう。
また、今後は政府や自治体の旅行支援策などが多く出てくると思われます。ただ、需要が一時期に集中しすぎると反動も警戒されます。その点において、訪日客需要の取り込みが、ホテルにとってより一層重要になってくると思われます。観光目的の訪日客が増えてくれば、価格の高い土曜や祝日前以外の予約も埋まっていくことが期待されます。そのことは客室稼働率の上昇につながります。円安効果で高単価プランの販売も伸びそうです。
この先、順調に訪日客が増加傾向となるようであれば、ホテルREITの業績もV字回復が見込まれます。一方、再びコロナの感染被害が拡大した際などに政府が入国制限を厳しくするようだと、事業環境にはネガティブな影響が想定されます。ホテルREITに投資する際には、政府のコロナ対応に関するニュースや、訪日客に関するニュースにも注意を払うことをお勧めします。