J-REIT入門

J-REIT入門【第7回】~総合型REITを攻略する~

J-REITに関して、オフィス物流ホテル住居の4つの属性を見てきました。同じREITでも、その物件の属性によって、期待値やリスクに違いがあることが少しお分かりいただけたかと思います。今回は、複数の属性のある不動産をポートフォリオに持つ総合型REITについて解説します。


商業系は物件次第

その前にあと一つ、商業系について触れておきます。商業系に関しては、これに特化しているREITは少ないのですが、総合型には商業系の物件をポートフォリオに加えているものが多くあります。


商業系をイメージしやすい例として、イオンリート投資法人(3292)というREITがあります。保有している物件はイオン系の商業施設で、国内最大級の商業施設であるイオンレイクタウン(kaze・mori)もあれば、地方のイオンモールもポートフォリオに入っています。なお、同投資法人は総合型ではなく、商業施設特化型のREITとなります。


同じ「イオン」であっても、レイクタウンと他の店舗の収益性が違うということは容易に想像できるかと思います。また、こういった単一の企業が運営している物件だけでなく、複数の専門店が入っている商業ビルなどもあります。これら商業系は、地域性やどのようなお店が入っているのかによって、期待できる賃料収入は大きく変わってきます。基本的に、商業系は物件次第であると言えます。


総合型は千差万別

商業系についても知識を入れた上で、ここからは総合型のREITを掘り下げていきます。


以下は、総合型REITの野村不動産マスターファンド投資法人(3462)、ユナイテッド・アーバン投資法人(8960)、東急リアル・エステート投資法人(8957)の3投資法人の用途比率を並べてみたものとなります。各社のHPから抜粋(2022年10月10日時点)しており、各項目はそれぞれの名称を使用していますが、同系列の用途に関しては比較がしやすいよう色分けをしています。



これを見るとそれぞれ、各投資法人で用途比率が大きく異なることが分かります。野村不動産マスターファンドや東急リアル・エステートはオフィスの比率が高く、ユナイテッド・アーバンは、商業、オフィス、ホテルが同程度となっています。


オフィスの比率が多い2社を見ても、野村不動産マスターファンドはオフィス以外の商業、物流、住居を同じくらいの割合としているのに対して、東急リアル・エステートは、基本、オフィスと商業の2属性でポートフォリオを構成しています。


どういう比率が優れている、劣っているということはありません。ただ、不動産市況によってその時々でどの属性が強い、弱いというのはありますので、総合型に投資する場合には、どういった内訳となっているかはしっかり確認しておいた方が良いでしょう。


総合型のメリット

総合型のメリットとしては、分散効果が挙げられます。属性解説ではコロナ禍での影響の大小なども見ていきましたが、1つのREITの中に複数の属性が入っていれば、どこかが悪くてもどこかが補うといった効果が期待できます。


また、投資法人側が不動産市況を踏まえて、将来的に収益性の高そうな属性の割合を高めていくことも考えられます。


総合型のデメリット

一方、メリットで挙げた話は、そのままデメリットにもなります。例えば、オフィス市況の好調が目立つ局面などでは、オフィス特化型のREITの方がパフォーマンスが良くなると考えられます。投資法人側が物件の入れ替えなどをして用途比率を大きく変えてしまうことが、結果として収益性の悪化につながるといったことも予想されます。


また、特化型REITというのは、目利きもその分野のプロフェッショナルと言えます。同じ属性でも良い物件とそうでない物件を見定めるノウハウを多く持っており、総合型はその点では特化型に劣ります。不動産は長期視点で評価する資産ですので、取得時点で高い利回りが期待できると見込んでいたものが、実際にはそうでなかったといったこともあり得ます。


まとめ

総合型に関しては、複数の属性を持つ不動産が含まれるという点で、リスクが見えづらくなるという側面はあります。REITを運用対象のメインに据えたいという方や、複数のREITを時流に応じて入れ替え、インカムゲインだけでなくキャピタルゲインを積極的に狙いたいという方であれば、特化型の方がシンプルで使いやすいかもしれません。


一方、株式や債券なども多く保有されていて、資産分散の一つとしてREITを考えている方や、REITの分析にそこまで時間をかけたくないという方であれば、総合型は使い勝手の良い投資対象になると言えます。金銭的に複数銘柄を買う段階ではないけれどもREITの理解を深めていきたいという方の入門編としても、総合型はニーズを満たすものになるかと思います。


また、総合型というのは、先述したように投資法人によって運用方針が様々です。各投資法人のHPをチェックして、ご自身のイメージに近い分散を行っている総合型REITが見つかれば、そういったものに投資してみて推移を追っていくというのも良いかと思います。商業系を含んだものが多い分、物件一覧には行ったことや利用したことがあるところがあるかもしれません。属性内で優劣がつきやすい特化型と比べると個別重視となりやすい分、掘り出しものに出会える確率が高いとも言えますので、様々な投資法人のHPを眺めてみることをお勧めします。


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日本株情報部 アナリスト

小松 弘和

証券会社、外資系生命保険会社、大手出版社マネーサイトの株式分析アナリスト、FX会社勤務を経て2014年に入社。金融全般に精通。2級FP技能士。 「トレーダーズ・プレミアム」では、「個別株戦略」「Market Flash」などのコンテンツやニュース配信を担当。 メディア掲載&出演歴 日経CNBC「朝エクスプレス『証券中継』」(隔週金曜)、株主手帳「街の専門家『今月の相場見通し』」、週刊現代、日経マネー、ダイヤモンド・ザイ、ビジネスマンの人生逆転マガジン「Ambitious」、完全ガイドシリーズ「株 完全ガイド」

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