不動産株とJ-REITの類似点・相違点
J-REITと不動産株は、利益の源泉が不動産から得られる収益という点で、近い位置にあります。ただ、株価(J-REITでは投資口価格)に関しては、似た動きをすることもあれば、そうでないこともあります。今回は不動産株とJ-REITの類似点、相違点について整理します。
不動産関連の4つの収益
不動産に関連するビジネスの収益には、大きく分けて
①賃料収入
②住宅、マンションなどの物件販売収入
③不動産開発における収入
④不動産管理などから発生する収入
などが挙げられます。
この中で①と④は比較的安定しており、②③はブレが大きい傾向があります。不動産はプロジェクトの資金が巨額となるため、成功すればその見返りも大きい一方、失敗した際のダメージも大きくなります。
REITは①の賃料収入がメーンとなります。ポートフォリオを見直して物件を売却することはありますが、そこで得られた資金がマンション建設や不動産開発に投じられることはありません。
②と③の比較では、③の方がよりハイリスク・ハイリターンと言えます。②の住宅やマンションは、ある程度実需を見込んでプロジェクトが進みます。昨今では資材費の高騰などで案件自体が厳選されるため、住宅やマンションを作ってみたけど買い手がサッパリといったことは、以前に比べると減っています。最悪、値下げをすれば物件の販売は進みます。
③に関しては、プロジェクト自体が予定通りに進まなかったり頓挫するリスクがあります。また、売却予定先が環境の変化で資金を調達できなくなった場合などでは、他の買い手を見つけることが困難になることも少なくありません。
不動産会社の業績が大きく変動する場合、②や③の影響が大きくなることが多いです。不動産株は②③の収益が、アップサイドポテンシャルにもダウンサイドリスクにもなり得ます。
大手不動産企業も賃料収入は安定収益源
不動産会社も大手から中小まで様々ですが、大手では利益に占める賃料収入の割合が高くなっているところが多いです。三井不動産(8801)の2023年3月期2Q(3-9月)決算をみると、営業収益は1兆0570億円のうち3634億円、営業利益は1315億円のうち751億円を賃貸セグメントが稼ぎ出しています。利益面での貢献度が非常に大きくなっています。
これが中小になると、①よりも②や③が業績に占める割合が高くなる傾向があります。その分、業績が好調の際には大幅増益、曲がり角になった場合には大幅減益となりやすいです。
J-REITは大勝ちと大負けの両方の可能性を排除
一口に不動産関連と言っても、そこから発生する収益の性格は大きく異なります。その中で①の賃料収入に特化したJ-REITは、短期間で大勝ちする可能性と大負けする可能性の両方を排除していると言えます。ミドルリスク・ミドルリターンの性質を持っていると言われる所以です。
その点を踏まえると、②③の要素で不動産株が大きく動くような局面というのは、J-REITのトレードの機会にもなると考えられます。
不動産売買が活況で、しかもバブルの兆候はないといった環境下であれば、J-REITよりも不動産株を保有した方が、期待リターンは高くなると考えられます。こういった局面では「不動産株が上がったからREITも上がる」と考えるのではなく、むしろ「不動産関連の相対比較でREITの魅力は下がる」と考えた方が良いでしょう。ただし、その状況が長期化するとの見方が強まり、賃料水準も大きく上がりそうとなった場合には、不動産株にやや遅れてREITの評価が高まることが期待できます。
逆に、不動産バブルが崩壊するなどして、多くの不動産企業の業績が急速に悪化したとしても、その要因が②③である場合、J-REITは不動産株ほど業績面で痛手を被るわけではないと考えられます。こういった時にJ-REITが不動産株に連れ安するようなら、中長期では買いの好機と考えられます。
J-REITに対する理解を深めつつ、その派生として不動産株もチェックしておけば、投資戦略の幅も広がります。なお、J-REITと不動産株が同じような動きをする場合の大きな要因としては、金利動向が挙げられます。長期金利は①②③のどれにも影響が大きく、金利が大きく上昇するような際には、J-REIT、不動産株のどちらにもネガティブな影響が予想されます。金利が低下する局面ではその逆となります。