8月に入り、REIT指数の動きが大きく変わってきました。
年初来安値更新後に急伸
日経平均株価が歴代最大の下げ幅を記録した8月5日に、REIT指数も1621.75p(終値)まで下落して年初来安値を更新しました。
しかし、その後は鋭角的に切り返しており、1700p、1750pといった節目を次々に突破。8月28日の取引時間中には1799.30pまで上昇し、1800pに迫っています。
8月前半の下げで目先の底打ち感が台頭
足元でREIT指数の動きが良くなってきた要因はいくつか考えられます。
まずは、8月前半の大幅安で目先の底打ち感が台頭してきたことが挙げられます。
REITは利回り商品ですので、個別銘柄では投資口価格が下落すれば分配金利回り面での妙味は高まります。日経平均株価は8月5日に4451円安と暴落しましたが、その後は反転しています。何か新しいリスクが顕在化したというよりは、円高が加速する中、それまで強かったことに対する巻き戻しの動きが短期間で出てきたようでもありました。
一時的なマーケットの混乱であれば、安定した利回りに対する期待が高いREITには押し目買いが入りやすくなります。
株価暴落で日銀の利上げに対する過度な警戒が後退
日本株が暴落したことで、日銀の利上げに対する過度な警戒が後退したことも、REITの上昇につながったと考えられます。日銀は7月30日~31日の金融政策決定会合で追加利上げに踏み切りました。この会合の後の植田日銀総裁の会見はタカ派色が強いと市場で受け止められました。一方で、米国ではFOMCが7月30日~31日の日程で開催されましたが、この会合の後のパウエルFRB議長の発言はハト派寄りと受け止められました。このスタンスの違いが日米金利差縮小を招くとの見方から、為替市場では円高・ドル安が一気に進み、8月序盤の日本株暴落につながりました。
日銀が利上げに積極姿勢を示せば、ある程度株式市場にネガティブな影響が出てくるのは仕方ないといえます。ただ、歴代最大の下げ幅というのはかなりのインパクトです。7月の日銀の追加利上げは経済情勢を踏まえれば、やや時期尚早の感はありました。今後は、日銀がさらなる利上げを行うとしても、株式市場の混乱を招かないよう、配慮がなされると予想されます。
折しも政治の世界では、岸田首相が自民党総裁選に出馬しないことを明言しており、新しい代表が決まれば衆議院の解散総選挙が実施されるとの見方が強まっています。選挙のタイミングでは日銀は株式市場を刺激するような施策には慎重になると思われます。日銀の追加利上げに関しては円安にブレーキをかける目的もあったとみられていますが、急速に円高が進んだことで、円安を警戒するような状況ではなくなりました。日本はまだ追加利上げの余地は大きいものの、利上げを急ぐ必要性は低下していると考えられます。
米国では9月FOMCでの利下げ開始が濃厚に
さらにREITの上昇に勢いをつけたのが、8月22日~24日に開催されたジャクソンホール会議です。パウエルFRB議長はこの会議において「政策を調整すべき時が来た」と言及し、市場はこの発言を「9月FOMCでの利下げを確約したに等しい」と受け止めました。この発言を受けて米国の10年債利回り(長期金利)が低下しており、REIT指数は一段高となっています。
引き続き日米の金融政策には要注目
REITを見る上では、引き続き日米の金融政策に注意を払う必要があります。
FRBが9月に利下げを行っても、年内がその1度のみであった場合には、利下げに対する期待が大きく後退します。日銀に関しては、まだ日本の長期金利の絶対水準が低いだけに、今後も利上げは実施されると思われます。その際に、市場が予想していないタイミングで不意打ちの政策変更を行った場合には、国内金利が急上昇してREITが売られる展開も想定されます。
一方、米国の経済指標がFRBの期待に沿うような形でスローダウンし、米国のソフトランディング期待が高まる中で利下げがある程度の期間継続していけば、REITには資金が入りやすくなると考えられます。日本に関しては、日銀が必要以上にマーケットを攪乱しないという前提のもとで、多くの人が景気が良くなっていることを実感できるような状況になれば、現状水準から多少金利が上昇しても許容されるでしょう。不動産価格や不動産賃料が上昇してREITの業績拡大につながるようなら、世界の中でJ-REITの評価が高まる展開も期待できます。
足元の動きからは、J-REITに対する先行き不透明感はかなり解消してきているようでもあります。この先はREIT指数が1800pの節目を突破し、1月22日につけた年初来安値の1844.61p(終値)を更新することができるかが注目されます。