2022年11月22日に、森トラスト総合リート投資法人(8961)と森トラスト・ホテルリート投資法人(3478)が、合併を発表しました。今回はこの内容について掘り下げながら、REIT合併の際に見ておくべき点などについて解説します。
森トラスト系列の2REITが合併を発表
森トラスト総合リート投資法人(以下MTR)と森トラスト・ホテルリート投資法人(以下MTH)は、社名から想像できるように、どちらも森トラスト系列のREITとなります。厳密には、MTRのスポンサーは森トラスト、MTHのスポンサーは森トラスト・ホテルズ&リゾーツとなります。MTRが総合型、MTHがホテル系のREITとなります。それぞれの属性に関しては、以前に解説しているので参考にしてください。
なお、今回の吸収合併方式では、存続投資法人がMTR、消滅投資法人がMTHとなり、合併後には商号を森トラストリートに変更する予定です。合併の効力発生日は2023年3月1日となります。
総合型とホテル系の合併
MTRは総合型ですが、オフィスの比率が71.2%(2022年9月30日時点)と高くなっています。ホテルもポートフォリオには入っていますが、MTHがハイクラスのホテルに投資するスタンスでしたので、これまでは住み分けがされていました。
統合型のMTRの保有者からすれば、ポートフォリオに加わる属性の幅が広がったと言えるでしょう。一方、ホテル特化型であるMTHの保有者からすれば、ホテル以外の属性が加わることは、魅力が低下したように見えるかもしれません。
ただ、MTHの保有物件は5物件(2022年8月31日時点)にすぎません。投資先を把握しやすいという分かりやすさはありますが、分散効果は低いです。資産規模もJ-REITの中で下から数えた方が早い状況でした。物件数が少なく資産規模も小さいと、外部環境の変化に脆いというリスクがあります。
合併に関する会社資料によると、資産規模が3000億円程度のMTRと1000億円程度のMTHが一つになることで4000億円規模のREITが誕生し、全60銘柄中、14位に浮上するとのことです。これにより、REIT市場の中での注目度が高まることが期待されます。
LTVは借入金比率をチェックする指標
合併によるメリットの一つに、規模が大きくなることで収益機会が増える可能性があるという点があります。
REITの成長というのは、保有物件の賃料などが上昇するといった内的要因のほか、高い利回りが見込まれる物件を新たに取得するという外的要因があります。ただ、不動産は高額ですので、無尽蔵に取得できるわけではありません。
REITの指標の一つにLTV(Loan to Value ローン トゥ バリュー)というものがあります。借入金の比率を見る指標で、一般的に有利子負債÷総資産で算出されます。低い方が安全性が高いと見られています。
MTRの2022年8月末時点のLTVは47.9%でした。今回、合併した投資法人では、スポンサーから「神谷町トラストタワー」の一部を追加取得することが決まりました。現在のMTRのポートフォリオにも同物件は入っていますが、駅近、築浅の好物件です。ただ、合併前のMTR単独で同物件を追加で取得しようとすると、50.2%に上昇することになり、50%を超えるという状況でした。
しかし、合併によりLTVが46.1%に低下することになり、合併会社で追加取得した場合のLTVは47.9%と50%を超えない見込みとなりました。財務リスクを高めることなく、魅力的な物件を取得することが可能となっています。
セイムボート出資比率でスポンサーとの結びつきを確認
また、今回の合併に関する資料の中では、合併後のセイムボート出資比率が29.2%になる見込みであることが記載されています。このセイムボート出資比率というのも、REITを分析する上では良く出てくる指標の一つですので、ここで解説しておきます。これは、スポンサーがその投資法人の投資口をどの程度保有しているかを表す指標となります。same=同じ、boat=ボートで、同じ船に乗っていることを意味しており、この比率が高ければスポンサーとの結びつきが強いと解釈できます。29.2%はJ-REITの中では高い部類に入ります。
単純に高ければ良い、低ければ悪いというものではありません。スポンサーの信頼度が低ければ、この比率が高いことはリスクにもなり得ます。とは言え、スポンサーとの結びつきが強いということは、スポンサー経由での優良な物件であったり有益な情報が当該REITに入りやすいと考えられます。
オール森トラストで再出発
今回の合併は、実質的に同じスポンサーのREITを一つにまとめたということになります。MTHはハイクラスのホテルに投資するというコンセプトの分かりやすさはあったものの、その制約があった分、物件を数多く取得するには至りませんでした。また、ホテルは経済活動が正常化した今では期待値の高い属性ですが、住み分けをしていた分、MTRのポートフォリオにはホテルを積極的に入れづらいという状況であったと推測されます。
そういった状況に変化を出すために「オール森トラストで行こう!」というスタンスに切り替わりました。投資家側からすると、ホテル特化型のREITが一つなくなることにはなりますが、森トラストというブランドを信頼できれば、合併REITはオフィスの安定性に高級ホテルの成長性が加わり、魅力度が増すと考えられます。資産規模が増大することで、J-REIT市場の中で流動性が高まることも期待できます。
また、これが刺激になり、ほかでもJ-REITの合併、再編といった動きが出てくるかもしれません。そうなってくると、金融商品としてJ-REIT全体の注目度が高まるといった展開にも期待が持てます。