J-REITに関して、これまでオフィス、物流、ホテル(前編・後編)と3つの属性を見てきました。今回は、住居系REITの特徴について解説します。
住居系は分配金が安定的
住居系REITについての理解を深めるには、まず分配金を見ておくのが良いかと思われます。以下は住居系の代表格であるアドバンス・レジデンス投資法人(3269、以下ADR)と、日本アコモデーションファンド投資法人(3226、以下アコモF)の分配金の推移となります。
前回のホテル・後編では、新柄コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年に分配金の水準を大きく減らしたホテル系REITが多かったことを確認しました。しかし、住居系REITではコロナのネガティブな影響がほとんどなかったことが見て取れます。
そしてもう一つ、分配金の変動がそれほど大きくないこともお分かりいただけるかと思います。
住居系の投資対象は主に賃貸住宅
住居系REITは基本的に賃貸住宅を主な投資対象としています。ADRは賃貸住宅に特化したREITで、アコモFも賃貸住宅への投資比率が90%を超えています。
賃貸住宅は差別化が難しい
賃貸住宅は、オフィスや物流施設、ホテルなどと比べると、物件での差別化が難しいという特性があります。そしてこのことは、プラスとマイナス両方の面があります。
まず、マイナスの面については、賃料を上げづらいという点があります。賃貸物件を探す際、物件を決めるにあたっては、最寄駅からの距離や部屋の広さなど幾つかの要素がありますが、多くの人にとっては家賃がかなり重要度の高い条件になると思われます。需要のある地域には賃貸住宅が多く建設されますし、競争も激しくなります。賃料を上げれば物件の収益性が上がることは分かっていても、周辺価格から逸脱した家賃設定にすると借り手が集まりません。
一方で、多少築年数が古かったとしても、利便性が高かったり、家賃に見合った物件であれば借り手がつくというのも賃貸住宅の特徴です。(賃貸ではなく)購入であれば新築のニーズが高くなる傾向がありますが、賃貸の場合は住居人の入れ替えが頻繁に発生します。築浅物件になることで家賃が上がるのであれば、築年数が古くて家賃が抑えられた同クラスの物件の方が好まれることも多いです。
賃貸住宅は、きちんと需要のあるところに物件を建てれば、家賃を調整するなどにより、空室リスクを抑えることができます。差別化が難しいということは、必要以上に差別化をしなくても安定収益が見込めることの裏返しとなります。なお、アコモFでは個別物件ごとの稼働率をHP上で公表していますが、22年8月末時点で大半の物件の稼働率が90%を上回っています。
REITの中ではローリスクローリターン
住居系REITの分配金の変動が小さいのは、こういった点が背景にあります。分配金が大きく増えるイメージは描きづらい一方、大きく減る懸念も少ないという特性があり、REITの中ではどちらかというと地味な部類に入るかと思います。景気が良く、不動産賃料が右肩上がりの時にはREITの中では選好されづらいですが、景気悪化懸念からREIT全体が調整色を強めるような局面では、ディフェンシブ性を発揮する展開が期待できます。
REIT自体がリスク資産の中ではミドルリスク・ミドルリターンの性質をもっていますが、その中で、ローリスク・ローリターンの立ち位置にいるのが住居系といえます。ローリスクとノーリスクは似て非なるものではありますが、下落リスクを極力抑えたいというニーズがあり、3%程度の利回りが確保できれば十分というスタンスであれば、投資対象として魅力のある商品の1つになるかと思います。