J-REIT入門

J-REIT入門【第4回】~属性解説(ホテル・前編)~

J-REITが保有する物件の属性について、オフィス物流と解説しましたが、今回はホテルについて解説します。なお、前回の予告では、ホテル(レジャー)タイプとしていましたが、執筆時点(2022年9月時点)で、政府の水際対策緩和に絡んでホテル系REITに強い動きが見られました。これを受けて、ホテルを前編・後編の2回に分けて掘り下げることとし、ホテル以外のレジャー系に関しては、これとは別に改めて取り上げることとします。


ホテルは部屋の価格が日ごとに変動

ネット経由でホテルの宿泊予約をしたことのある方であれば、金曜・土曜・祝日前とそれ以外の日では、部屋の値段が大きく違うといったことを目にしたことがあるかと思います。ホテルは、同じ部屋でも日によって価格が変動することが大きな特徴となります。日曜の部屋と月曜の部屋に変化はありませんが、宿泊料が倍以上違うといったことも珍しくありません。


また、シーズンによっても価格が大きく変動します。春は桜、夏は海、秋は紅葉、冬は雪やスキー、それぞれの季節だからこそ人が集まる場所があります。大規模なお祭りやイベントなど、スポット的に需要が高まる日もあります。これらのイベントの際に人気になりやすいホテルは、シーズンオフの時期との宿泊料に開きが出ることもあります。


ADR、稼働率、RevPAR

ホテル系のREITを分析するには、ADR、稼働率、RevPARといった3つの指標が重要となります。


①ADRは、Average Daily Rateの略で、日本語では平均客室販売単価となります。ホテルの中でも部屋の値段は様々ですので、それを平準化したものとなります。


②客室稼働率は、宿泊部屋がどの程度利用されているかを示す指標です。


③RevPARは、Revenue Per Available Roomの略で、日本語では販売可能客室数あたり客室売上となります。ざっくり①に②を乗じたものが③となります。なお、②稼働率に関しては100%なら1、80%なら0.8を乗じるという計算方法となります。


ADR × 客室稼働率 = RevPAR


ホテルREITに関しては、①ADRか②客室稼働率のどちらか、もしくは両方を高める要素があるかどうかがアップサイドポテンシャルとなります。


客室稼働率はMaxが100%ですので、この項目が高水準である場合には、ADRを高められる要素があるかがポイントとなります。一般的には、ホテルの人気が高まれば稼働率がアップし、それに伴い価格を上げることで需要を調整するという流れが予想されるため、ADRと稼働率は同時に上がりやすくなるとは言えます。


コロナ禍では需要が消失


2020年の新型コロナウイルスの感染被害拡大は、ホテル業界にも大きなダメージを与えました。日本だけでなく世界的に感染が拡大し、海外からの観光目的の訪日客はストップしました。国内でも行動が大幅に制限され、それが長期化しました。


ここで、ホテル系REITの1つである、インヴィンシブル投資法人(8963)のデータを見ながら、そのインパクトについて確認したいと思います。同投資法人の公表データをもとに、ADR、客室稼働率、RevPARを抽出しています。なお、同投資法人は海外ホテル物件もポートフォリオに入っていますが、コロナの影響を精査するという点から、ここでは国内ホテルの動向を見ることとします。



コロナ禍の前年、2019年は客室稼働率が概ね80%台後半から90%台で高い位置で安定していたことが見て取れます。それが2020年の3月には稼働率が50%を割り込んでしまいました。宿泊需要自体が消失してしまうような状態となったためADRも低下傾向となり、その結果、RevPARの水準も前年との比較では大きく水準が切り下がりました。


足元では稼働率が回復傾向も・・・


先ほどは2019年と2020年のデータを見て行きましたが、次は2021年と2022年のデータとなります。


日本では行動制限が長く続いたことで、2021年になっても稼働率の改善には時間がかかりました。2022年に入り、ようやく行動制限が解除となったことで、7月には稼働率が70%台を回復しました。ただ、2019年のような80%台後半から90%といった水準までには至っていません。


次回は投資口価格や分配金の推移について確認します


新型コロナウイルスの感染被害拡大というのは、もしかするとホテル業界の最大のリスクを顕在化させたと言えるかもしれません。自然災害などであれば、特定のホテルが一時的に利用できなくなったとしても、復旧すれば再開できます。しかし、新型コロナに関しては、政府や自治体が感染動向をどう捉えているかにより、需要が大きく左右されます。ホテル自体は問題なく使えても、行動制限の話が出てくれば、せっかく入った予約も簡単にキャンセルされてしまいます。ここ数年のホテルの運営はかなり大変であったことが推測されます。


今回は、ホテルREITの分析指標(ADR、客室稼働率、RevPAR)について紹介し、これを活用して一つのREITを参考にホテルの現状把握を行いました。次回はこういったデータの変動に対して分配金や投資口価格がどういった動きをしたのかを振り返りつつ、ホテルREITに投資する際の魅力や注意点などについて整理していきます。


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日本株情報部 アナリスト

小松 弘和

証券会社、外資系生命保険会社、大手出版社マネーサイトの株式分析アナリスト、FX会社勤務を経て2014年に入社。金融全般に精通。2級FP技能士。 「トレーダーズ・プレミアム」では、「個別株戦略」「Market Flash」などのコンテンツやニュース配信を担当。 メディア掲載&出演歴 日経CNBC「朝エクスプレス『証券中継』」(隔週金曜)、株主手帳「街の専門家『今月の相場見通し』」、週刊現代、日経マネー、ダイヤモンド・ザイ、ビジネスマンの人生逆転マガジン「Ambitious」、完全ガイドシリーズ「株 完全ガイド」

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