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「ロボタクシー商用化元年」:量産化に現実味、急拡大の波

自動運転タクシー(ロボタクシー)の量産計画が、2025年に入って急速に現実味を帯びてきました。米テスラや、中国の百度(09888)系「Apollo Go」、小馬智行(Pony.ai)、文遠知行(WeRide)、Momenta(魔門塔)などの企業が次々と運用拡大や量産計画を明らかにしており、2025年は自動運転タクシーの商業化「元年」として注目されています。これまで一部地域での試験運行にとどまっていた自動運転タクシーは、いよいよ大規模な商用フェーズに入ろうとしています。


レベル4自動運転技術の成熟

現在の自動運転タクシーには、限定領域で自動運転を行う「レベル4(L4)」技術が用いられています。この技術は多くの試験運用を通じて一定の成熟度に達しつつあります。小馬智行によると、完全無人での運用はすでに3年前から継続されており、安全記録も良好です。テスト時の平均時速は38キロに達し、すでに人間のドライバーと同等の運転能力を備えているといいます。 


主な企業の導入・拡大状況

米テスラは6月、米テキサス州オースティンの一部地域で自動運転タクシーの運行を開始しました。運転席は無人で、助手席に安全監視スタッフが控えます。マスク最高経営責任者(CEO)は、SNSで運賃が1回4.2米ドルであることを明かし、「10年間の努力の集大成」と強調しました。また、数カ月以内に1000台規模への拡大を目指す意向や、ハンドルとペダルのない新型車「CyberCab」の26年の量産構想も示しています。


小馬智行は第7世代となる自動運転タクシーを開発中で、25年末までに運用台数を1000台へ増やす計画です。25年4-6月期決算では、売上高が前年同期比75.9%増の1億5400万元となり、そのうち自動運転タクシーの運賃収入は4倍以上に増加しました。運用台数は6月末時点で500台を超えています。 


百度は25年4-6月期決算報告書で、同期間の配車サービスApollo Goの配車件数が220万件に達し、前年同期比148%増となったことを明らかにしました。運営規模は加速しており、海外展開も進んでいます。Apollo Goは6月末時点でアジアや中東を中心に16都市をカバー。8月には配車サービス大手Lyftと戦略的提携を結び、欧州で自動運転配車サービスを提供する予定です。第6世代の自動運転車を用いて、26年にドイツと英国でサービス開始を計画しています。将来的には欧州市場で数千台規模の導入を目指しています。


文遠知行はUberとの提携を強化し、今後5年間で欧州や中東を含む15都市に自動運転タクシーを導入する計画です。MomentaもUberと提携し、26年初頭までに欧州で初のL4自動運転サービスを開始する予定です。さらに、Momentaは上海汽車集団傘下の配車サービス「享道出行」と提携し、上海汽車のEVブランド「IM Motors(智己汽車)」の既存モデル「LS6」をベースにしたL4自動運転タクシーを、26年にも数百台規模で展開する計画です。


コスト低下とスケールメリット

小馬智行の張寧副総裁は、1000台規模の導入目標について、一線都市ではこの規模が損益分岐点になると説明しています。このラインを超えると、車両投入が増えるほど粗利益率が高まり、運営コストも低下する「好循環」に入るといいます。また、一定規模に達すると、サプライチェーンへの価格交渉力が高まり、スケールメリットによりコスト構造の最適化も期待できます。


運用規模拡大を後押ししているのは、ハードウエアコストの大幅な低下です。自動運転車両に必要なLiDARや高性能カメラ、高性能チップなどは、従来は製造コストを押し上げる要因でした。しかし、L2+レベルの自動運転普及に伴い、これらのデバイスの価格は大きく下落しています。小馬智行の第7世代モデルでは、車両全体の部品原価が70%削減されました。百度のApollo Go第6世代モデルも、1台あたりの製造コストが前世代の48万元から20万4600元にまで下がっています。


国内外の規制緩和も商業化を後押ししています。米国では25年4月に連邦運輸省が新たな自動運転フレームワークを発表し、法規制の簡素化を進めています。中国では地域レベルで自動運転の実用化に向けた制度整備が加速しており、北京市は今年4月1日、「自動運転車条例」を施行しました。これにより、自動運転車によるタクシーなどの移動サービス提供が認められています。北京市は30年までに高度自動運転の実証区域を3000平方キロメートル以上に拡大する方針です。北京以外でも、広東省仏山市、江門市、浙江省嘉興市、安徽省などが、地域独自の自動運転管理細則を相次いで発表しています。


こうした技術成熟、コスト低下、規制緩和がそろったことで、自動運転タクシーの商業化が現実味を帯びています。投資家にとっても、国内外で事業拡大が進む企業の動向は注目すべきポイントです。

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中国株情報部 アナリスト

シ セイショウ

中国・上海出身。復旦大学を卒業後、外資系法律事務所で翻訳・通訳を担当。来日後は証券会社や情報ベンダーでの勤務を経て、2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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