あの株はいまいくら?

第12回「農工大発の創薬型バイオベンチャーのティムス 臨床試験開始再評価の発表で株価急落」

「あの株はいまいくら?」では、話題になった銘柄の現状を確認します。今回はティムス(4891)をみていきます。

同社は東京農工大学発の創薬型バイオベンチャーであり、ヒト体内にある酵素「可溶性エポキシドハイドロラーゼ(sEH)」を阻害することによる「抗炎症作用」に基づく医薬品開発に重心を置いています。


2022年11月に上場したティムスは、米製薬大手であるバイオジェンとマイルストーン総額500億円相当の大型契約を締結していたこともあり、「いつものダウンラウンドでようやく上場が許されるようなバイオベンチャーのIPO案件とは格が違う印象」との声が出ていました。では、上場からの株価の動きを振り返ります。



ティムスの株価推移(上場から3カ月)

2022年11月22日に上場した同社の初値は、公開価格670円を大きく上回る919円でした。海外配分が多かった(公開株数の約55%)ことで需給が引き締まったことも初値を押し上げる要因となりました。


その後いったん公開価格近辺まで調整する場面もありましたが切り返しの動きとなり、12月5日に1188円まで上昇しました。これが上場来高値です。ここを天井として株価は下落。12月に公開価格を下回り、1月には500円台まで下落しました。


1月24日に大きく上昇していますが、これはジェフリーズ証券が新規「Buy」でカバレッジを開始したと伝わったことが材料視されたようです。一時的に700円台を回復しましたが、上昇トレンドに転換とはなりませんでした。



【ティムスの日足チャート(2022年11月~2023年1月)】



ティムスの株価推移(2023年3月~4月25日)

3月に入っても株価は下落基調。3月13日にバイオジェンが後期第II相臨床試験を4月 17 日から開始する見込みであることが発表されましたが、それほど材料視されませんでした。

4月に入り、14日に23.2期通期の決算を発表。22.2期においてバイオジェンのオプション権行使による一時金収入があった反動で赤字転落となりましたが、すでに織り込み済みであり、株価はここでいったん下げ止まりました。



【ティムスの日足チャート(2023年3月~4月25日)】




足もと株価は急落

決算発表を通過し、落ち着いた値動きになるかと思いましたが、1つの発表で状況は一変することになりました。


バイオジェンによる「TMS-007(BIIB131)の後期第II相臨床試験の開始を一時停止し、臨床試験を開始すべきかどうかを再評価する」との発表です。


米国時間4月25日にこの発表が出ました。ティムスは26日8時30分に、「さらなる情報収集を行い、バイオジェンの決定に対する同社への影響を評価すべく努めている」とコメントしました。


ここでバイオジェンが開発をストップすれば、最大3億3500万ドルのマイルストーン一時金とロイヤルティーを得ることできなくなります。ティムスにとってはこの大型契約があるからこそ上場できた(30億円近い金額を調達できた)と考えられるほど、重要な問題です。

この発表を受けて売りが殺到。4月26日に394円のストップ安まで下落、27日もストップ安となり314円まで下落しました。



追加コメントを発表

27日引け後にティムスはTMS-007の開発に関するリリースについての追加コメントを発表しました。


リリースでは、バイオジェンはTMS-007の臨床試験を開始すべきかどうかを再評価するとの発表と併せて、他の2つのプログラムを中止することおよび眼科領域から撤退することを発表しているので、TMS-007の中止が決定しているわけではないとの認識が示されました。


また、仮にバイオジェンが TMS-007の開発を中止した場合は、協議を通じてTMS-007の開発権などを適正な対価で再取得できる可能性があるとしています。そして、現時点では前期第II相臨床試験の結果が判明しているため、当該判明前に行ったバイオジェンとの交渉と比較して、より開発段階が進んだ医薬品候補物質として開発リソースの獲得交渉(製薬会社との提携交渉を含む)を行い得るとの考えを示しました。



最後に

今回の再評価がそれほど深刻ではない可能性もありますので、まずは「なぜバイオジェンが再評価することにしたのか」などさらなる詳細発表が待たれます。

なお、ティムスはTMS-007のこれまでの臨床試験および非臨床試験の結果から、医薬品としての可能性を強く信じているとのことです。


いまのところTMS-007が完全に否定されたということではありませんので、今後の発表次第で株価は大きく切り返す可能性はあります。ただ、現時点で投資するのは極めてハイリスクハイリターンですので、様子見すべきでしょう。リスク承知で押し目を狙う場合でも、少額の投資金額にとどめるべきと考えます。


この連載の一覧
第38回 勤怠管理システムの「ヒューマンテクノロジーズ」 株価は上場来安値圏で公開価格も下回るが
第37回 ポケットマルシェ運営の「雨風太陽」 赤字縮小も株価は下落傾向
第36回 自転車専門店の「ダイワサイクル」 決算受け株価は水準訂正 営業利益10億円も近い?
第35回 AI関連として注目集まる「ABEJA」 足もと株価は上場来高値の半値水準
第34回インフラ分野特化のAIベンチャー「グリッド」  初値天井も株価は逆襲局面
第33回 サーモンの養殖、水産品の加工・販売の「オカムラ食品」 上場日の高値を12月に更新
第32回 名刺管理サービスの「Sansan」 大きな流れの変化のタイミングは近い?
第31回 オーダーメード型AI開発の「ラボロAI」 24.9期は組織の土台づくり優先へ
第30回 航空機エンジン部品の製造・販売の「エアロエッジ」 キラリと光る下請け製造業
第29回 メタバースプラットフォーム運営の「monoAI」 とうとう公開価格割れ
第28回 月面開発事業の「ispace」 資金調達懸念も夢は大きい
第27回 キャッシュレス決済サービスの「TMN」 株価はついに公開価格割れ 底打ちはまだ?
第26回 単結晶ダイヤモンドの「EDP」 1Q赤字転落も状況は改善
第25回 AI技術活用したサービス開発の「HEROZ」 株価10分の1からの逆襲局面
第24回「不眠治療用アプリのサスメド 不眠大国ニッポンの救世主?」
第23回「ビジネスコーチ リスキリングが追い風」
第22回「CtoCメディアプラットフォーム運営のnote 黒字化はまだまだ先?」
第21回「クラウド型ソフト“ヤプリ”を提供するヤプリ 初の四半期黒字化達成でトレンド転換か」
第20回「月額制ファッションレンタルサービスのエアークローゼット リオープン関連株の出遅れ?」
第19回「音楽著作権管理のネクストーン 過度な期待のはく落はチャンス?」
第18回「マイクロ波技術ベンチャーのマイクロ波化学 夢の技術も業績が」
第17回「ライブ配信プラットフォーム「ツイキャス」の運営のモイ 急騰でトレンド転換?」
第16回「完全栄養食の開発・販売のベースフード 利益率改善で黒字化なるか」
第15回「航空会社国内3位のスカイマーク 経済再開で需要回復だが懸念も」
第14回「クラウドインテグレーター大手の日本ビジネスシステムズ ChatGPTで再注目?」
第13回「ヘルスケア機器の開発・販売のPHCHD V字回復見通しだが・・・」
第12回「農工大発の創薬型バイオベンチャーのティムス 臨床試験開始再評価の発表で株価急落」
第11回「アルゴリズム開発のパークシャテクノロジー 来期は大幅増益なるか」
第10回「ヘアカット専門店「QBハウス」のQBネットHD」
第9回「にじさんじ運営のエニーカラー ホロライブのカバー上場で需給はさらに悪化?」
第8回「ロボアドのウェルスナビ 預かり資産の増加ペース鈍化?」
第7回「高級家電のバルミューダ 上場来安値更新も?」
【あの株はいまいくら?】第6回「SIXPADのMTG インバウンド消滅響くも反撃に期待」
【あの株はいまいくら?】第5回「クラファンのマクアケ 2年続く下落トレンド 底入れ間近?」
【あの株はいまいくら?】第4回「ユーチューバー事務所のUUUM 株価10分の1からの再出発?」
【あの株はいまいくら?】第3回「ペッパーフードサービス 直近株価は急落 復活はあるか?」
【あの株はいまいくら?】第2回「フリマアプリのメルカリ 株価は底値圏のようだが・・・」
【あの株はいまいくら?】第1回「パズドラのガンホー」

日本株情報部長

河賀 宏明

証券会社、事業会社におけるIR担当・経営情報担当、FPや証券アナリスト講師などを経て2016年に入社。 金融全般に精通。証券アナリスト資格保有。 「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別株を中心としたニュース配信を担当。 メディア掲載&出演歴 株主手帳、日経CNBC「朝エクスプレス」、日経マネー

河賀 宏明の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております