「あの株はいまいくら?」では、話題になった銘柄の現状を確認します。今回はHEROZ(4382)をみていきます。
2018年4月20日に東証マザーズに上場した同社は、上場時点では将棋など頭脳系のスマートフォン向けゲームの運営が主力だったものの、市場の目線はBtoBの「HEROZ kishin(キシン)」を活用した企業向けの個別AIサービスに集中。AI関連銘柄として初値高騰が期待されるなかでの上場となりました。
では、HEROZの上場後の動きをみていきます。なお、同社は2018年12月と2020年1月に1:2の株式分割を実施しています。このコラムでは分割を遡及修正した株価を用いて説明していきます。
HEROZの株価推移(上場から2019年6月まで)
2018年4月20日に上場した同社ですが買いが殺到することとなり、上場3日目(2018年4月24日)にようやく初値が決定しました。
初値は1万2250円(分割考慮前4万9000円)と公開価格1125円(分割考慮前4500円)の11倍近い値を付け、見事にテンバガー(株価が10倍になった銘柄)を達成。ITバブルだった1999年10月に上場したMTIを抜き、ブックビルディング制度導入以降で最高のスタートで、歴史的IPOだったといえます。
ただ、同社の上場来高値は2018年4月24日の1万2412.5円(分割考慮前4万9650円)です。つまり、上場3日目の高値が上場来高値となっています。ほぼ初値天井ですね。さすがにテンバガーはやりすぎだったということでしょう。
株価は下げ足を速め2018年5月11日には4970円(分割考慮前1万9880円)と初値の半値以下となりました。下落基調は続き、2018年12月21日には3002.5円(分割考慮前1万2010円)を付けました。
株価が反転し始めたのは、2019年2月からです。上昇に勢いをつけたのは、バンダイが立ち上げたAI技術を活用したデジタルカードゲームの新ブランド「AI CARDDASS」の第1弾タイトルとなるスマートフォンアプリ「ZENONZARD」の開発に協力し、「HEROZ Kishin」を活用したカードゲーム特化型AIを開発したと発表したことです。
2019年6月には株価は1万0230円(分割考慮前2万0460円)まで上昇し、久しぶりに1万円の大台を回復しました。
この要因は6月12日に発表した19.4期通期の決算と考えられます。19.4期通期は二ケタ増益になるとともにAI(BtoB)サービスの売上高が大きく伸びました。これが株価を押し上げたようです。
【HEROZの週足チャート(上場から2019年6月まで)】
HEROZの株価推移(2019年7月~2022年7月)
2019年6月に1万円の大台を回復し、「ここからもう一段高」という期待は高まりましたが、以下のチャートのとおり、そこから3年間、株価は右肩下がりとなりました。
2020年の新型コロナウィルスのパンデミック発生などにより、業績が伸びなかったことが株価下落の要因と考えられます。
同社の営業利益は、19.4期通期は4.2億円、20.4期通期は4.6億円、21.4期通期は2.9億円、22.4期通期は0.3億円となりました。20.4期がピークとなっています。これでは業績期待は高まらないですね。
下がり続けた株価は、2022年に入り公開価格1125円を下回りました。初値はテンバガーでしたので、10分の1以下まで下落したことになります。そして、2022年7月4日に上場来安値774円を付けました。
【HEROZの日足チャート(2019年7月~2022年7月)】
HEROZの株価推移(2022年8月~2023年8月30日)
2022年7月に安値を付けてから徐々に下値を切り上げる展開となりました。大きく上昇したのは2023年5月から6月にかけてです。
まず5月30日にChatGPTを活用した「次世代型コンタクトセンター」プロジェクトを始動したと発表し、株価は大幅高となりました。
6月9日には24.4期通期の連結営業利益予想を4.0億円(前期比55.1%増)にすると発表。20.4期通期の連結営業利益4.6億円には届いていないものの、射程圏内となっており、状況次第では20.4期超えもあり得ると考えられます。
決算発表を受けた12日の株価は買いでの反応となり、いっきに2000円の大台を回復しました。14日には2550円まで上昇しています。しかし、上昇のペースが速かったこともあり、その後は売りに押されて、足元の株価は1600円~1700円程度で推移しています。
【HEROZの日足チャート(2022年8月~2023年8月30日)】
今後について
同社は2022年にバリオセキュアを連結子会社化しました。バリオセキュアが展開するセキュリティ事業に、同社グループのAIを実装 していく事業を展開するAI Security事業セグメントは、リカーリング(継続)売り上げ比率が86.4%と非常に高く、今後も安定的な売り上げが期待できるとしています。
BtoBソリューション事業では、営業組織の発足に伴い新規顧客案件が増加。生成系AI関連での引き合いも増加しているとのことです。
同社は上場時点では期待先行でした。そして、新型コロナのパンデミックの影響もあり、一時的に業績は低迷しましたが、バリオセキュアの子会社化などもあり、ようやく業績拡大フェーズに入った印象です。
AI Security事業の安定した利益に、AI/DX事業(BtoC、BtoB)の利益がしっかりと上乗せされるとすれば、株価の水準訂正が期待できます。業績の進ちょくをしっかりと確認しながら、買いのチャンスを探ってみるのも面白いと考えます。