あの株はいまいくら?

第46回 IoTプラットフォーム「SORACOM」展開の「ソラコム」 26.3期以降に成長を加速できるかが注目点

「あの株はいまいくら?」では、話題になった銘柄の現状を確認します。今回はソラコム(147A)をみていきます。


2024年3月26日に東証グロース市場に上場したソラコムは、企業がIoTを導入する際に必要な物やサービスをワンストップで提供するIoTプラットフォーム「SORACOM」を展開しています。


具体的には、IoTデバイスやIoT SIM、IoTに必要な通信回線、IoTサービスに求められるデータ保存や可視化アプリケーション、ネットワークサービスなどをプラットフォームサービスとして提供しています。


ソラコムは、上場前はKDDIのIoTサービス子会社でしたが、上場後はKDDIの株式保有割合が低下したことから、持ち分法適用会社となっています。


欧米での実績のある希有(けう)な大型ベンチャーのIPOとあって、機関投資家の間でも人気化していたことから、好調な初値が予想されていました。では、ソラコムの上場からの株価推移を確認していきます。



ソラコムの株価推移(上場から2024年5月31日まで)

同社の初値は1563円と公開価格870円を大きく上回りました。ただ、初値形成後は軟調な展開となり、上場初日の終値は1338円と初値を下回りました。


上場初日こそ軟調な展開となりましたが、その後の株価は非常に好調な推移となり、上場から6営業日後の4月2日には2460円まで上昇。なお、この2460円が上場来高値となっています。


2460円まで上昇した要因として、大和証券が4月1日付けで公表した新規公開レポートの影響が考えられます。レポートでは、既存事業のオーガニック成長により、同社の24.3期営業利益を6.5億円、25.3期同10.5億円と予想。リカーリング収益が伸びると想定していました。


上場来高値をつけたということは、そこが天井となっていることを意味しますので、その後の株価は軟調に推移します。なお、上場してから終値で2000円を上回ったのは6日(3/29、4/1、4/2、4/3、4/8、5/1)のみとなっています。


そして、株価がずるずる下げる厳しい局面で、上場後初の決算発表を迎えることになりました。


同社が5月10日に発表した24.3期通期の営業利益は7.3億円(前の期比7.2倍)と大幅な増益での着地となり、大和証券予想の営業利益6.5億円を上回りました。

課金アカウント数やARPA(1アカウントあたりの平均売上金額)が伸びたことにより、リカーリング収益(プラットフォーム利用料)による継続収入が増加したことが寄与したとのことです。


一方、25.3期通期の会社計画の営業利益は9.3億円(前期比27.2%増)としました。こちらは大和証券予想の営業利益10.5億円を下回っています。これが嫌気されたのか、決算発表後の株価は軟調に推移し、5月月末には1200円台まで下げる局面がありました。



【ソラコムの日足チャート(上場から2024年5月31日まで)】



ソラコムの株価推移(2024年6月3日から9月25日まで)

6月に入り株価は切り返しの動きとなり1500円台を回復。その後はやや売りに押され1300円台で推移していましたが、8月上旬に急落することになりました。これは個別要因ではなく、全体相場が大きく崩れたことが要因と考えられます。


そして、8月上旬の急落からの戻りの途中で、上場後2回目の決算発表を迎えます。


同社が8月14日に発表した25.3期1Qの営業利益は9400万円(前年同期比12.8%増)となりました。通期計画9.3億円に対する進ちょくは良くないですが、同社では「概ね当初計画通りに推移している」とし、通期の業績予想は据え置いています。


決算発表を受けて株価は上昇しましたが、決算が好感されたというよりも、8月上旬の大幅下落からの戻りの局面が続いていたことが、要因と考えられます。その後、1300円台まで上昇したところで戻りは一服。9月に入りやや水準を下げ、1100~1200円台での株価推移が続いています。


【ソラコムの日足チャート(2024年6月3日から9月25日まで)】



今後について

25.3期については現状概ね計画どおりに推移しているようです。ただ、24.3期から増益率が大きく低下する見込みです。25.3期以降の利益成長がどの程度になるかが読みづらいといえます。


足もとの株価は公開価格を上回るものの初値は下回っていますが、今期会社予想を基にしたPERは80倍を超えています。成長期待がかなり織り込まれていると思いますが、25.3期の会社計画程度の成長が続くようであれば、このPER水準を維持できない可能性があります。26.3期以降に再度成長を加速できるかが最大の注目点になりそうです。


最後に、9月12日付の日本経済新聞朝刊は、KDDIがIoTサービスを拡大すると報じました。2025年度に売上高2000億円と23年度に比べ3割増をめざすとしています。ソラコムは、KDDIの持ち分法適用会社ですので、収益貢への献を期待したいと思います。



この連載の一覧
第46回 IoTプラットフォーム「SORACOM」展開の「ソラコム」 26.3期以降に成長を加速できるかが注目点
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日本株情報部長

河賀 宏明

証券会社、事業会社におけるIR担当・経営情報担当、FPや証券アナリスト講師などを経て2016年に入社。 金融全般に精通。証券アナリスト資格保有。 「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別株を中心としたニュース配信を担当。 メディア掲載&出演歴 株主手帳、日経CNBC「朝エクスプレス」、日経マネー

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