あの株はいまいくら?

第19回「音楽著作権管理のネクストーン 過度な期待のはく落はチャンス?」

「あの株はいまいくら?」では、話題になった銘柄の現状を確認します。今回はNexTone(ネクストーン、7094)をみていきます。


JASCRACの対抗組織として設立された同社は、音楽コンテンツの著作権管理を展開しています。2020年3月に東京証券取引所のマザーズ市場に上場しましたが、同業他社がJASRACしかなく、もちろん初モノ上場だったことから、注目を集めました。

ただ、この時期は新型コロナウイルスの世界的流行の初期にあたります。実際に2020年3月に上場を予定していた会社のうち4社が上場を延期、翌4月には14社が上場を延期しました。株式市場が大混乱に陥るタイミングでの上場といえます。

では、ネクストーンの上場後の株価の動きをみていきます。なお、同社は2021年1月31日を基準日として1株を3株に株式分割していますので、それ以前の株価は分割をそ及修正しています。



ネクストーンの株価推移(上場から2021年末まで)

2020年3月30日に上場した同社の初値は、公開価格566.67円(分割をそ及修正)を下回る553.33円(分割をそ及修正)でした。新型コロナの影響による音楽イベントの相次ぐ中止など逆風下での上場となったことで、注目度は高かったものの公開価格を小幅に割り込むスタートとなりました。


ただ、同社については上場初日が一番の買い時だったといえます。同日に付けた安値526.67円(分割をそ及修正)が上場来安値です。新型コロナへの警戒感が極めて高かった時期であり、会社側としては非常に厳しいタイミングでの上場だったと思います。一方、投資家にとっては割安に同社株を購入できるチャンスでした。


上場後は非常に堅調な値動きとなり、2020年4月に2000円(分割をそ及修正)の大台に到達、翌5月には3000円(分割をそ及修正)の大台に到達しています。その後は調整を挟みながらも上昇トレンドが続き、2021年11月25日に上場来高値5300円をつけました。初値553.33円の10倍とはいきませんでしたが、それに近い水準まで上昇しました。



【ネクストーンの週足チャート(2020年3月~2021年12月)】



ネクストーンの株価推移(2022年)

2022年は年明けから急落。4000円を超えていた株価は2月に一時2000円を割り込みました。

この株価下落は個別要因ではなく、全体要因と考えられます。2022年に入り、マザーズ指数は年初の1000ポイント近辺から2月には600ポイント台まで一気に下落しました。

その後、一時的に800ポイント台まで戻す場面はありましたが、本格的な回復とはならず、、マザーズ指数は600~800ポイントの範囲で上下することとなりました。


一方、同社株は年初こそ全体相場に引きずられましたが、その後は緩やかな上昇トレンドとなります。この要因と考えられるのが業績です。


同社は2022年5月13日に、23.3期の連結営業利益予想は8.9億円(前期比25.6%増)と発表しました。22.3期の連結営業利益は7.1億円(前の期比31.3%増)でしたので、大幅な増益が続く見込みとなっています。

業績に対する安心感もあり、2022年11月には株価は5000円目前まで上昇しました。



【ネクストーンの週足チャート(2022年)】



ネクストーンの株価推移(2023年1月~2023年6月)

2023年は2022年と打って変わって、下落トレンドとなります。

2月13日には窓を開けて急落。これは2月10日に発表した23.3期3Q累計の連結営業利益が5.3億円(前年同期比15.5%増)と増益ではあったものの、通期の会社計画8.9億円に対する進ちょくが59.2%と遅れていることが嫌気されたものです。


5月15日にも窓を開けて急落。同社は5月13日に、24.3期通期の連結営業利益予想を10.0億円(前期比19.0%増)と発表しました。増益見込みではありますが、アナリスト予想の平均である市場コンセンサス12.5億円を下回りました。

また、23.3期通期の営業利益の着地が8.4億円と、会社計画8.9億円を下回ったことも響きました。3Qの時点で進ちょくが遅れていたことから、達成への懸念が台頭していましたが、残念ながら計画には届きませんでした。なお、株価はその後にいったん切り返しましたが続かず、6月には一時2000円の大台を下回りました。


【ネクストーンの日足チャート(2023年1月~6月29日)】



今後の株価は?

同社については、経済活動の再開もあり、24.3期業績への期待が高まりすぎていたと考えられます。ただ、23.3期通期の営業利益が計画を下回ったこともあり、会社の出した24.3期通期の営業利益予想は保守的である可能性があります。


イベントなどは順調に回復していますし、同社の管理作品数と取扱原盤数は順調に増加してます。会社計画では24.3期1Q営業利益を1.8億円と予想していますが、1Qの着地がこの水準を超えてくれば、再度成長期待が高まることになるでしょう。そうなれば、株価の水準訂正も期待できます。

過度な期待がはく落したタイミングは中長期での仕込み時になることがよくあります。実際に同社もそのようになるかはわかりませんが、今後の株価推移に注目していきたいと思います。


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日本株情報部長

河賀 宏明

証券会社、事業会社におけるIR担当・経営情報担当、FPや証券アナリスト講師などを経て2016年に入社。 金融全般に精通。証券アナリスト資格保有。 「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別株を中心としたニュース配信を担当。 メディア掲載&出演歴 株主手帳、日経CNBC「朝エクスプレス」、日経マネー

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