「あの株はいまいくら?」では、話題になった銘柄の現状を確認します。今回はispace(9348)をみていきます。
2023年4月12日に東証グロースに上場したispaceは、月面開発の事業化に取り組む宇宙ベンチャーであり、注目度は2023年IPOでもトップレベル。4月下旬に民間初となる月面着陸を予定していたこともあり、セカンダリーへの期待も高く、初値高騰が予想されていました。
では、ispaceの上場後の株価の動きをみていきます。
ispaceの株価推移(上場から2023年6月30日まで)
2022年4月12日に上場したispaceですが、上場初日は買いが殺到し値付かずとなりました。上場2日目(13日)に付いた初値は1000円と、公開価格254円を大きく上回りました。
国内初の宇宙ベンチャーの上場として注目度が高かったことに加え、吸収資金は70.5億円でしたが、公開株式の多くが親引けで配分されていたことから、実質的な吸収金額は23億円、国内に限れば12億円にとどまり、需給は強烈にひっ迫しました。
好調な初値を付けましたが、その後も快進撃は続きます。上場3日目の14日もストップ高まで上昇。さらに4月14日15時30分に民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」について、ミッション1マイルストーンの「Success8」が完了したと発表。人気化しているところに材料が投下され、翌営業日である17日もストップ高となりました。
株価上昇は18日、19日も続き、19日の高値2373円が上場来高値となっています。さすがにいったん売られたものの、すぐに切り返し2000円台の大台を回復しました。しかし、その後に急展開を迎えます。
同社の月面着陸船は4月26日未明、月への着陸に挑みました。しかし、結果は失敗。同社は26日8時に、「HAKUTO-R」ミッション1における月面着陸について、同日8時時点ではランダー(月着陸船)との通信の回復が見込まれず、月面着陸を確認する「Success9」の完了が困難と発表しました。
この結果を多くの報道機関が速報で伝えました。これを受けて売りが殺到。26日、27日と連日でストップ安となり、株価は2000円から1000円まで下落、いっきに半値になりました。その後も下落基調となり5月12日には上場来安値となる793円まで下落しました。
ただ、そこで終わらないのが同社のすごいところです。5月15日に通期決算を発表。24.3期通期の連結営業損益予想を71.2億円の赤字(前期は110.2億円の赤字)に、同売上高予想を62.0億円(前期比6.3倍)にするとしました。増収と赤字縮小見通しを受けて株価は上昇しました。
さらに、日本経済新聞電子版は5月24日に、同社の袴田武史最高経営責任者(CEO)が取材に応じ「(宇宙での安定運航や月の周回軌道への到達など)10個の目標のうち、8個は達成できた。得られたデータは貴重な資産として次に生かせる」と強調したと報じました。
5月26日には、「HAKUTO-R」ミッション1の成果報告を発表。株価はこの発表を受けて2000円の大台目前まで上昇しました。しかし大台回復とはならず、その後は下値を切り下げ1500円どころまで下落しました。
【ispaceの日足チャート(上場から2023年6月30日まで)】
ispaceの株価推移(2023年7月~2023年10月11日)
7月以降の株価は1500円を挟んで上下200円程度の値動きが続きました。その間には以下のような材料が出てきました。
8月18日:「月保険」の保険金37億9300万円を受領と発表
9月28日:米国に本社を構える民間企業とペイロードサービス契約を締結すると発表
9月28日:土木鉱山機械メーカーのエピロックと「HAKUTO-R」のコーポレートパートナー契約を締結したと発表
9月28日:ミッション3の重要な開発マイルストーンである月着陸船のすべての基本設計審査(PDR)を完了したと発表
10月6日:インド初の民間開発ロケットの宇宙空間到達を成功させたSkyroot Aerospace Private Limited、キューブサットや小型衛星向けコンポーネントの供給に実績を持つオーストラリアのHex20 Pty Ltdとの間で、将来的な月周回衛星ミッションの需要創出 に向けて協力する3社間覚書を締結したと発表
定期的に材料は出ていましたが、米長期金利上昇や金利高止まり懸念もあり、新興銘柄には厳しい地合いが続きました。そして、直近に大きな動きがでました。きっかけはロックアップの解除です。
2023年10月8日でロックアップ期間が終了し、公開株数2470万株の倍となる5000万株程度のロックアップが解除されました。需給悪化懸念もあり翌営業日となった10日、11日と連日でストップ安となりました。
なお、同社は有価証券届出書に「ロックアップ期間終了後の近い将来において、約50億円程度の資本増強による資金調達を実施する可能性がある」と記載しています。増資への警戒感が売り急ぎに拍車をかけたと考えられます。
ロックアップ解除後、5月12日につけた上場来安値793円目前まで下げました。通常であればロックアップ解除による一時的な需給悪化なので、株価は徐々に回復に向かうことが期待されるのですが、同社の場合は資金調達という懸念があります。
24.3期1Q時点の純資産は26億円となっていますが、通期の最終赤字は79億円を見込んでいます。1Qの最終赤字分を踏まえても、40億円超の資金を調達しなければ、債務超過となります。
黒字化にはまだまだ時間がかかりそうですので、定期的な資金調達は必要でしょう。投資を行うなら創薬ベンチャーと同様に資金調達は行われるものと割り切るべきと考えます。
【ispaceの日足チャート(2023年7月~2023年10月11日)】
今後について
月面着陸は失敗しましたがミッション1は、10個の目標のうち、8個を達成しました。次回のミッション2では月面着陸成功を期待したいところです。なお、24.3期1Qの決算説明会資料では「ミッション2の詳細については今後計画を発表予定」とされています。計画の詳細が発表されるのはもう少し先になりそうです。
夢を買うという点では創薬ベンチャーと同様ですので、資金調達を懸念するのであれば、同社株には手を出さない方がよいでしょう。次の資金調達が国内において公募増資で行われる場合は、国内初の宇宙ベンチャーを応援するという目的から参加するのもよいでしょう。失敗のリスクはありますが、応援していれば成功したときの喜びは大きなものになります。リスクは大きいですが、新NISAの片隅で少額投資してみるのもよいと考えます。