あの株はいまいくら?

第18回「マイクロ波技術ベンチャーのマイクロ波化学 夢の技術も業績が」

「あの株はいまいくら?」では、話題になった銘柄の現状を確認します。今回はマイクロ波化学(9227)をみていきます。


電子レンジに使われるマイクロ波を産業用に大型化するプラットフォーム技術を独自開発している同社は2022年6月24日に東京証券取引所グロース市場に上場しました。


マイクロ波技術を使うと、従来の「熱と圧力」を使った製法に比べ、エネルギー消費量は3分の1、加熱時間は10分の1、用地面積は5分の1に低減できるということで、夢の技術として注目されました。

しかし、利益がまだついてきていないうえ、公開価格の1.5倍以上でロックアップ解除となるベンチャーキャピタルの保有株数が公開株数(348万6600株)を大きく超える844万8500株あったことから、強気一辺倒とはなりませんでした。


仮条件は想定価格580円を下限とした580円~605円のレンジで設定され、公開価格は仮条件の上限となる605円で決定しました。

では、マイクロ波化学の上場後の株価の動きを見ていきたいと思います。



マイクロ波化学の株価推移(上場から2022年11月まで)

2022年6月24日に上場した同社の初値は、公開価格605円を下回る550円となりました。公開価格割れを予想する声は少なかったので、この初値には驚きました。

2022年6月は米欧の各国中銀のインフレ抑制に向けた利上げ発表が相次ぎ、株式相場が不安定でした。このような状況で薄利グロースの同社株は敬遠され、まさかの公開価格割れスタートとなりました。


ただ、ここからの動きはさすが夢の技術を持つ会社といった印象です。公開価格に戻した時点では足踏みしましたが、戻り待ちの売りを吸収すると急伸。その後はストップ高をつけました。


初値こそ公開価格を下回りましたが強い動きが続き、上場3日目の6月28日には900円まで上昇しました。しかし、この価格帯で上値を抑えられることになります。ベンチャーキャピタルの保有株のロックアップ解除価格907円が強烈に意識されたようです。実際にこの水準で売りも多く出たと考えられます。


ただ、2022年10月にこの水準を明確に超えてくると上昇トレンドとなり、11月にさらに急騰、11月21日に上場来高値である3105円まで上昇しました。2カ月で3倍と驚異的な株価上昇となりました。


この上昇の期間には株価上昇を後押しする発表が相次ぎました。


2022年11月1日

「NEDOが進める「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/実用化開発フェーズ」において、「マイクロ波プロセスを応用したプラスチックの新規ケミカルリサイクル法の開発」に取り組んでおり、今般、国内初となる1日あたり1トンの処理能力を持つマイクロ波を用いた汎用実証設備が完成したと発表」


2022年11月7日

「アサヒグループホールディングス(2502)傘下のアサヒグループ食品へマイクロ波多段凍結乾燥装置を販売・導入し、事業化に向けた実証試験を進めると発表」


2022年11月16日

「三井化学(4183)との間で、マイクロ波を用いた炭素繊維製造用実証設備供給に関する契約を締結すると発表」


2022年11月21日

「世界初となる食品・医薬などを対象としたマイクロ波多段式凍結乾燥装置「SiriusWave」の販売を開始すると発表」



【マイクロ波化学の日足チャート(2022年6月~2022年11月)】




マイクロ波化学の株価推移(2022年12月~6月22日)

12月は大きく上昇した反動で急落する場面がありましたが、その後すぐに切り返しの動きになりました。ただ、この動きはちょっとマネーゲーム色が強かった印象です。

その後、出来高が落ち着くとともに株価も水準を切り下げる展開となり、3月29日には1591円まで下落しました。ただ、1600円どころが下値目途とされているようで、そこまで下げると切り返すという動きが続いています。


【マイクロ波化学の日足チャート(2022年12月~6月22日)】



今後について

夢の技術だけあって、材料となるニュースは多く、一時的に株価を大きく押し上げることがよくあります。その反面、上場当初から指摘されていた「利益がついてきていない」という状況は変わっていません。同社の24.3期通期の営業利益予想は4000万円(前期比32%減)と薄利かつ減益見通しとなっています。


優位性のある技術があり、研究開発を着実に進めているとは思いますが、会社の発表資料をみても営業利益が数億円~数十億円に拡大する未来はいまのところ描けないと感じました。

今後、大きな契約を獲得し業績が急拡大するというという可能性はあるものの、類似技術が開発され優位性がなくなるというリスクもあります。ハイリスクハイリターンという印象であり、投資の初心者が中長期で保有する銘柄としては、おすすめはしづらいと感じます。


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日本株情報部長

河賀 宏明

証券会社、事業会社におけるIR担当・経営情報担当、FPや証券アナリスト講師などを経て2016年に入社。 金融全般に精通。証券アナリスト資格保有。 「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別株を中心としたニュース配信を担当。 メディア掲載&出演歴 株主手帳、日経CNBC「朝エクスプレス」、日経マネー

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