解説!つみたてNISAとiDeCo

退職所得控除の利用方法に注意すべき!

iDeCoでは、60歳~75歳の間に老齢給付金の受け取りを開始することができます。

加入期間が10年以上であれば、60歳から受け取ることができます。

加入期間とは、「実際に掛金を拠出した期間」「掛金を拠出せず、運用のみ行った期間(運用指図期間)」を合計した期間となります。

60歳までの加入期間が10年より短い場合、加入期間によって受給開始年齢は引き下げられます。



「一時金」形式は退職所得控除の対象

老齢給付金の受け取り方法は、「一時金」形式(一括での受け取り)「年金」形式(分割での受け取り)が基本となります。

「一時金」形式は、一括で老齢給付金を受け取る方法となります。

退職金扱いとなり、「退職所得控除」の対象となります。

加入期間を勤続年数とみなし、退職所得控除額を計算します。

加入期間は「掛金を拠出した期間」のみ勤続年数にカウントします。



加入期間が20年の場合は800万円、30年の場合は1500万円となります。


退職所得の計算方法

退職所得の金額(収入金額-退職所得控除額)×1/2


収入金額は会社から支給される退職一時金、企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)からの一時金、他の企業年金からの一時金を含みます。

これらの収入金額が退職所得控除額以下であれば、税金はかかりません。


退職所得控除の重複適用は4年超の期間が必要

「一時金」形式を選択し、「退職所得控除を利用すれば、支払う税金を軽減できる」と考えることができます。

ただし、注意点があります。


退職所得の対象となる給付金(企業からの退職一時金、iDeCoや企業型DCの老齢給付金など)4年以内に2回受け取ると、重複して加入する期間の退職所得控除が少なくなります。


説明を加えますと、(1)同時に2つの退職金を受け取るケースで重複期間がある場合(例:60歳の誕生日に「企業からの退職一時金」と「iDeCoの老齢給付金」を同時に受け取る場合)、(2)4年以内に2つの退職金を受け取るケースで重複期間がある場合(例:60歳の誕生日に「企業からの退職一時金」、63歳の誕生日に「iDeCoの老齢給付金」を受け取る場合)、退職所得控除をダブル計上することはできません。

つまり、(2)は「同時受け取り」とみなされます。


一方、4年超の期間をあけた場合、重複して加入する期間も退職所得控除を重複して適用することができます。

ただし、確定拠出年金(iDeCoや企業型DC)の老齢給付金を先に受給することが前提となります。


具体例を用いて説明します。

【前提条件】30歳の誕生日に転職し、併せてiDeCoで運用を開始(全ての期間で掛金を拠出)

(例題1)4年未満の場合

ケース1:62歳の誕生日にiDeCoの老齢給付金を受け取り、65歳の誕生日に企業からの退職一時金を受け取った場合の退職所得控除

62歳時に受け取るiDeCoの老齢給付金に対する退職所得控除額:運用期間(勤続年数)32年

1640万円(800万円+70万円×12年)


65歳時に受け取る退職一時金に対する退職所得控除額:勤続年数35年

「勤続年数に対応する退職所得控除額」から「重複期間に対応する退職所得控除額」を控除する必要があります。


(A)勤続年数に対応する退職所得控除額:35年(30歳~65歳)

1850万円(800万円+70×15年)

(B)重複期間に対応する退職所得控除額:32年(30歳~62歳)

1640万円(800万円+70×12年)

(C)65歳児に受け取る退職一時金に対応する退職所得控除額

(A)-(B)=210万円


〈参考〉

(A)勤続年数に対応する退職所得控除額を算出する際、1年未満は切り上げ

25年1カ月→26年で計算

(B)重複期間に対応する退職所得控除額を算出する際、1年未満は切り下げ

18年7カ月→18年




(例題2)4年を超えた場合

ケース1:60歳の誕生日にiDeCoの老齢給付金を受け取り、65歳の誕生日に企業からの退職一時金を受け取った場合の退職所得控除

60歳時に受け取るiDeCoの老齢給付金に対する退職所得控除額:運用期間(勤続年数)30年

 1500万円(800万円+70万円×10年)


65歳時に受け取る退職一時金に対する退職所得控除額:勤続年数35年

 1850万円(800万円+70万円×15年)

重複期間関係なく、退職所得控除額を適用することができます。



ちなみに、企業の退職一時金や他の退職給付金(小規模企業共済の老齢給付金など)を先に受け取り、確定拠出年金の老齢給付金を後に受け取る場合は、19年超の期間をあけなければ重複期間をダブル計上することができません。


確定拠出年金の老齢給付金、企業からの退職一時金の受け取り時期など、退職所得控除の有効な活用方法に関しては、次回以降説明します。


今回は、少なくとも「4年以内に2つの退職所得の対象となる給付金(企業からの退職一時金を含む)を受け取ると、退職所得控除のメリットを最大限に活かしきれない」ということを認識しておいてください。


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日本株情報部 アナリスト

角屋 昌範

2005年に国内証券会社へ入社後、投資情報部や調査部に在籍。投資情報部では、米国や香港株式市場見通しの作成など海外金融市場に関する調査業務に携わる。調査部では、ネット関連セクターを中心に国内個別企業のアナリストレポートを執筆した。 国内証券会社などを経て2019年に入社。主に先物市場見通しなど「デリバティブコンテンツ」を担当。 CFP DCプランナー

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