解説!つみたてNISAとiDeCo

本当に一時金形式で受け取った方が良いの?

iDeCoや企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)の老齢給付金の受け取り方法には、一時金形式年金形式があります。

一時金形式を選択した場合、退職所得控除の対象となります。

掛金拠出年数が長いほど退職所得控除額が大きくなり、支払う税金が軽減されるメリットがあります。


その一方、退職所得控除の利用方法には注意点があります。

確定拠出年金(iDeCo、企業型DC)と企業からの退職一時金を受給する場合、退職所得控除を重複して適用するには4年を超える期間を空ける必要があります。


4年を超えて退職所得控除を利用する場合

【前提条件】

30歳の誕生日に転職し、併せてiDeCoで運用開始(全ての期間で掛金を拠出)

60歳の誕生日にiDeCoの老齢給付金を受け取り、65歳の誕生日に企業からの退職一時金を受け取る


(1)60歳の誕生日に受け取るiDeCoの老齢給付金に対する退職所得控除額:運用期間(勤続年数)30年

 1500万円(800万円+70万円×10年)


(2)65歳の誕生日に受け取る退職一時金に対する退職所得控除額:勤続年数35年

 1850万円(800万円+70万円×15年)


⇒重複期間(30歳~60歳)関係なく、退職所得控除額を適用することができます。


4年以内に退職所得控除を利用する場合

【前提条件】

30歳の誕生日に転職し、併せてiDeCoで運用開始(全ての期間で掛金を拠出)

62歳の誕生日にiDeCoの老齢給付金を受け取り、65歳の誕生日に企業からの退職一時金を受け取る


(1)62歳の誕生日に受け取るiDeCoの老齢給付金に対する退職所得控除額:運用期間(勤続年数)32年

1640万円(800万円+70万円×12年)


(2)65歳の誕生日に受け取る退職一時金に対する退職所得控除額:勤続年数35年

勤続年数に対応する退職所得控除額」から「重複期間に対応する退職所得控除額を控除する必要があります。


(A)勤続年数に対応する退職所得控除額:35年(30歳~65歳)

1850万円(800万円+70×15年)

(B)重複期間に対応する退職所得控除額:32年(30歳~62歳)

1640万円(800万円+70×12年)

(C)65歳児に受け取る退職一時金に対応する退職所得控除額

(A)-(B)=210万円



さらに、受給する順序も重要となります。

上記の例のように、確定拠出年金の老齢給付金を先に受給し、企業からの退職一時金を後に受給する場合、4年を超えれば、退職所得控除を重複して適用することができます。


一方、企業からの退職一時金を先に受給し、確定拠出年金の老齢給付金を後に受給する場合、19年を超えれば、退職所得控除を重複して適用することができます。

つまり、企業からの退職一時金を先に受給する場合、退職所得控除を重複して適用するには19年を超える期間を空けなければなりません。


確定拠出年金の老齢給付金を先に受給するケース

確定拠出年金の老齢給付金を先に受給する場合、退職所得控除の重複適用するケースとして、「60歳の誕生日に確定拠出年金の老齢給付金の受給を開始し、65歳の誕生日に企業からの退職一時金を受け取る」という選択肢があります。


参考までに、上記のケースでは、企業からの退職一時金の受け取りを「65歳の誕生日」としましたが、「64歳の誕生日の翌日」以降に受け取れば、4年超となり退職所得控除の重複適用が可能となります。


ただし、注意すべき点があります。

(1)65歳まで定年が延長しても60歳に退職一時金を支給する企業もあり、65歳で退職一時金を受け取れない可能性があります。上記のケースを検討する場合、勤め先に確認して下さい。

(2)60歳の誕生日から確定拠出年金の受給を開始すると、その時点で運用を終了することとなり、目標金額に達していない可能性があります。

(3)iDeCoでは75歳まで運用が可能となるため、資産増加の機会を逸してしまう可能性があります。

(4)受給開始時点で運用している投資信託の単価が下落基調が続いている場合資産が目減りしている可能性があります。


60歳以降も確定拠出年金での運用を続けたいと考えるのでしたら、年金形式での受け取りを検討した方が良いと思います。


企業からの退職一時金を先に受給するケース

企業からの退職一時金を先に受け取り、退職所得控除の重複適用を優先したい場合、早期退職を検討する必要があります


例えば、60歳の誕生日に退職し、企業から退職一時金を受給する場合、退職所得控除を重複適用するには、79歳の誕生日の翌日以降に確定拠出年金の老齢給付金の受給を開始するとの計算になります。

しかし、iDeCoの老齢給付年金の受給開始年齢は60歳から75歳とされているため、79歳から受給を開始することができません


退職所得控除の重複適用を優先したい場合、「55歳までに早期退職をし、19年の期間を空けて確定拠出年金の老齢給付金を受け取る」という選択肢があります。

例えば、55歳の誕生日に早期退職した場合、74歳の誕生日の翌日以降に確定拠出年金の老齢給付金の受給を開始すれば、退職所得控除の重複適用が可能となります。


ただし、以下に注意点を記載します。

(1)受給を開始する際、運用している投資信託の単価が下落基調が続いている場合資産が目減りしている可能性があります。

(2)退職所得控除の重複適用にこだわると、「運用成果が良く、資産が大きく増加したタイミングで受給を開始すれば良かった」と後悔する可能性があります。

(3)不要不急の支出が生じた場合に、19年の期間を超える前に給付金を受け取らなければならなくなる可能性があります。


こうしたデメリットを懸念する場合、年金形式での受け取りをおすすめします。



年金形式での受け取りも併せて検討しよう

今回は、退職所得控除の重複適用をするための確定拠出年金の老齢給付金企業からの退職一時金の受給開始のタイミング、並びに注意点について説明しました。

退職所得控除の重複適用に気を取られて、肝心の運用資産が増加しなければ元も子もありません。

確定拠出年金の老齢給付金の受給開始年齢を気にせず、運用したいと考える方は、年金形式での受け取りを併せて検討した方が良いでしょう。


退職一時金の有無や支給額、確定拠出年金の老齢給付金の金額は人それぞれですので、必要でしたらFP(ファイナンシャルプランナー)などに相談し、受け取り方法を検討してみるのが良いと考えています。


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日本株情報部 アナリスト

角屋 昌範

2005年に国内証券会社へ入社後、投資情報部や調査部に在籍。投資情報部では、米国や香港株式市場見通しの作成など海外金融市場に関する調査業務に携わる。調査部では、ネット関連セクターを中心に国内個別企業のアナリストレポートを執筆した。 国内証券会社などを経て2019年に入社。主に先物市場見通しなど「デリバティブコンテンツ」を担当。 CFP DCプランナー

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