中国では近年、「低空経済」と呼ばれる新しい産業分野が注目を集めています。これは、地上からおよそ1000メートル以下の空域を使い、ドローンや小型航空機で人や物を運ぶ経済活動のことです。その中でも、特に実用化が進んでいるのが「無人物流」です。
無人物流とは、ドローンや無人車、無人倉庫などを使い、人の手をできるだけ介さずに荷物を運ぶ仕組みです。中国では政策による後押しと技術の進歩を背景に、すでに実際のビジネスとして広がり始めています。

なぜ無人物流が必要とされているのか
無人物流が急速に普及している最大の理由は、物流業界の人手不足です。中国ではネット通販利用の爆発的な増加を背景に宅配便の取扱量が急激に増え、2019年には1日平均1億件ほどでしたが、24年のピーク時には1日7億2900万件にまで跳ね上がりました。将来的には1日10億件に達すると予測されています。

一方、それを運ぶ配達員の数はここ数年、約400万人で頭打ちとなっています。荷物の量は7倍以上に増えているのに、運ぶ人は増えていないのです
この問題を解決する手段として注目されたのが、ドローンなどを使った無人物流です。人が行っていた配送の一部を機械に任せることで、配送のスピードを保ちつつ、労働力不足を補うことができます。
また、離島や山間部など、これまで配送に時間とコストがかかっていた地域でも、無人物流は大きな効果を発揮します。生鮮食品や医薬品など、スピードが重要な荷物を効率よく届けられる点も強みです。
政策が後押しする「成長産業」
中国政府は無人物流を重要な成長分野と位置づけています。関係機関は、無人配送や低空物流の拡大を支援する方針を相次いで打ち出しています。
特徴的なのは、「まずは物を運ぶ分野から実用化を進める」という考え方です。人を運ぶ空飛ぶタクシーよりも、リスクが低く、社会的にも受け入れやすい物流分野を先行させています。
このような政策環境は、関連企業にとって大きな追い風です。24年には、大手物流企業がわずか1年間で500以上の新しい無人機ルートを開設しました。これは過去10年間の合計の2倍以上という驚異的なペースです。こうした政策の後押しにより、企業は安心して投資し、技術を磨くことができる環境が整っています。


技術の進歩がビジネスを現実にした
無人物流を現実のものにしているのは、技術の進歩です。特に重要なのが、人工知能(AI)とモノのインターネット(IoT)です。
例えば、電池を持たない「パッシブIoT」という技術を使えば、荷物を開けなくても中身の情報を自動で読み取れます。これにより、仕分け作業が大幅に効率化され、人手と時間を節約できます。
また、AIによる安全管理技術の進展で、これまで飛行が難しかったエリアでもドローンが安全に飛べるようになりました。AIが複雑な飛行ルートを計算し、障害物を避ける技術が進んだことで、これまでドローンが飛べなかった住宅街や複雑な地形でも安全に飛行できるようになりました。ある都市では、飛行可能なエリアが17%から80%へと大幅に広がった例もあります。
空・地上・地下をつなぐ次世代物流
さらに進んだ取り組みとして、空(ドローン)、地上(物流拠点)、地下(無人配送車や地下鉄)を一体化した物流ネットワークも登場しています。この仕組みでは、荷物が空から地上、地下へとスムーズに移動し、配送にかかる時間とコストを大きく削減できます。配送時間が最大80%、コストが最大50%も削減できるというデータが出ています。
こうしたモデルはすでに浙江省や粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)などで展開されており、再現性の高いビジネスとして定着しつつあります。
投資の視点で見る無人物流
株式投資の観点から見ると、無人物流は「政策支援」「明確な需要」「技術革新」という3つの条件がそろった分野です。短期的な話題性だけでなく、物流という社会インフラを支える分野であるため、中長期的な成長が期待できます。物流大手だけでなく、ドローン、AI、IoT関連企業にも注目が集まる可能性があります。



