中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない――。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。
▼参考
中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
電池祖業の新エネルギー車世界最大手
今回紹介するのは、中国で新エネルギー車(NEV)やバッテリーの製造を手掛けるBYD(比亜迪:01211/002594)です。自動車、都市軌道交通(モノレール)、新エネルギー、ITエレクトロニクスの4大事業を手掛けるグローバル企業で、純電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)を含むNEVの販売台数では米EV最大手であるテスラを上回り、世界最大を誇ります。
日本では2023年にSUVの「ATTO 3(アットスリー:中国では元PLUS)」の販売を開始。長澤まさみさんの「ありかも、BYD!」というCMで、日本での知名度も高まってきています。日本での展開については前回のコラムでも取り上げているので、参考にしてみてください。
参考:意外と身近にある中国株、街中で探してみた(5) 電気自動車の王者BYD、日本で攻勢を仕掛ける「夢を実現する会社」
創業者・王伝福会長の生い立ち、安徽省の貧しい家庭で育つ
BYDはエンジニア出身の王伝福会長(59歳)が1994年に深センで創業(登記は1995年)した会社で、設立から30年で世界的な大企業に成長しました。王伝福会長は1966年、安徽省の農村の家庭に生まれます。8人兄弟の下から2番目として生まれ、上に兄1人と姉5人、下に妹1人。両親を含めて10人の大家族で育ちます。王氏は少年時代、寡黙で内向的な性格だったといいます。
家庭は貧しく、大工だった大黒柱の父親は王氏が13歳のときに肝臓がんで亡くなります。大家族の経済状況は厳しさを増します。5人の姉は次々と結婚して嫁ぎ、妹は里親に出されてしまいます。母親だけで家族を支えることはできず、兄が学業継続を断念して中学校を中退。働いて家計を助けることになります。しかし、その後、母親も心労が募る中で体調を崩し、他界してしまいます。このとき王氏は15歳です。両親の死によって、兄と2人だけの生活が始まります。
兄夫婦の支援で学業を継続、26歳で最年少の中堅幹部に昇格
王氏が高校に進学するころには兄が結婚し、兄夫婦と暮らすことになります。兄夫婦に世話をかけたくない王氏は学校をやめて働くことを考えますが、兄嫁は王氏に学業を続けるよう説得し、応援します。兄嫁は王氏を実の子のように世話し、自分の嫁入り道具を売ってまでも、献身的に王氏を支援したといいます。
しかし、王氏が高校2年のとき、激しい暴風雨によって家が壊されてしまいます。ただでさえ苦しい家計だったため家を修理するお金が足りません。仕方なく村中を回ってお金を借り、そこから王氏の学費や生活費を工面します。王氏は自分を支えてくれる兄夫婦のためにも必死で勉強することを誓います。
必死に勉強した王氏は1983年、湖南省長沙にある中南鉱冶学院(現中南大学)に進学します。専攻は金属物理化学です。卒業後は家計の負担を減らすため就職を考えますが、学業を続けるよう応援する兄嫁の強い勧めもあって北京有色金属研究総院で修士課程に進み、ここで電池技術について専門に学びます。後にBYD創業につながる分野です。
修士課程修了後、成績優秀だった王氏は、そのまま北京有色金属研究総院に残って研究を続け、2年後には最年少で副主任(中堅幹部)に異例の昇格を果たします。まだ26歳のときのことです。実力が認められ、徐々に頭角を現し始めます。王氏が後に祖業となる電池技術の知識を深めることができたのは、こうした兄夫婦の見返りを求めない献身的な支援があったからなのです。
なお、兄の王伝方氏と兄嫁の張菊秀氏は、のちに王氏が創業するBYDの苦しい創業期を支えます。王氏の負担を減らしたい一心で、流れ作業や倉庫管理、後方支援など自分たちにできる仕事を粘り強く続け、報酬さえ受け取ろうとしなかったといいます。兄夫婦はいまでもBYDで働き、兄の王伝方氏はBYD副総裁として弟の王氏をサポートしています。兄弟の強い絆を感じさせます。
兄の王伝方氏(写真左)と王伝福会長(写真右) 出所:知乎愛倫博士研学社
次回もBYDの続きです。お楽しみに。
まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄
今回紹介した銘柄は、主に自動車と電池を手掛けるBYD(01211/002594)で、香港証券取引所メインボードと深セン証券取引所A株市場に重複上場しています。
【中国の自動車・電池メーカー】電池を祖業とし、03年に自動車事業に参入。22年3月にガソリン車の生産から撤退し、純電気自動車とプラグインハイブリッド車に完全シフトした。自社開発のリン酸鉄リチウム系の「ブレードバッテリー」は米テスラなどにも供給。都市軌道交通事業も手掛ける。子会社のBYDエレクトロニック(00285)を通じてスマホや電子機器の受託製造サービスも展開。米著名投資家のバフェット氏の出資で脚光を浴びた。