中国では人工知能(AI)が医療分野で急速に使われ始めています。これまでの医療AIは「すごい技術を見せる」段階にとどまっていましたが、いまは病院の現場で実際に役立ち、収益にもつながる段階へと移行しています。
調査会社の報告によると、中国の医療AI市場は2023年に約973億元でしたが、2028年には約1598億元まで拡大する見通しです。医療は景気の影響を受けにくい分野であり、AIとの組み合わせは中長期の成長テーマとして投資家の関心を集めています。
医療AIは「病院のインフラ」になる
医療AIの大きな特徴は、単なる業務効率化ツールではない点です。診察の補助、病院運営の改善、研究支援まで幅広く使われ、「継続的に価値を生み出すインフラ」として位置付けられています。
患者の安全性、医師の判断の質、病院の経営効率を同時に高めることが求められており、実用性がなければ普及しません。この点で、中国の大手IT企業は「実装力」を強みに医療分野へ踏み込んでいます。

京東健康と阿里健康、実装段階へ前進
まず、JDドットコム(09618)傘下の京東健康(06618)です。同社が今年1月、医師向けのエビデンスに基づく医療(EBM)支援AIツール「知医」をリリースしました。これは米国発の医師向け臨床意思決定支援と医学知識検索に特化したAIツール「OpenEvidence」に相当する中国版ソリューションと位置づけられています。同時に、病院向け大規模モデル「京東卓医」2.0版も発表しました。25年1月に運用が始まった「京東卓医」1.0版は患者サービスフローの改善に重点が置かれていましたが、2.0では病院の新たな成長エンジンとなることを目指しています。京東健康は「AI+サプライチェーン」の強みを生かし、臨床栄養、院外投薬、代謝管理など主要領域を横断的に支援します。
一方、アリババ集団(09988)傘下の阿里健康(00241)も今年1月に自社開発の医療大規模モデル「ケイ離子(Hydrogen Ion)」を公開しました。同モデルは「低ハルシネーション(もっともらしい嘘をつかない)」と「高エビデンス」を核とし、すべての回答に根拠を付し、即時に情報源を遡及できる点が特徴です。臨床・研究分野の医師を対象としたAIアシスタントとして、医療分野で高い信頼性を備えたAIツールの構築を掲げています。機能設計はOpenEvidenceに近いが、中国医療現場への適合度で優位性を持ちます。
両社に共通するのは、「医師が安心して使えるAI」を目指している点で、これは長期的な利用と安定収益につながります。

患者の行動が変わり、医療が連続化
AI導入の効果は、患者の行動にも表れています。従来は当日に診療受付を行う患者も少なくありませんが、京東健康が提携病院のデータを分析したところ、AIシステムの導入後、患者の行動に顕著な変化が見られました。
具体的には、診療前7-14日の段階で23.09%のユーザーが症状や医師の情報を検索し、診療前7日には68.80%の患者が事前受付手続きを行い、合わせて問診情報の登録を進めました。また、診療後7日時点でも43.63%の患者が医療機関とオンライン上での接点を維持しており、診療後7-14日も15.75%のユーザーがシステムを利用し続けています。医療サービスは「単発の診察」から「連続型」へ移行しつつあり、医療の質と効率を同時に高める構造変化といえます。
京東健康のインターネット医療部門のマネジャーを務める范卉氏は、現在のネット医療は単なるオンライン問診を超え、予防、検診、診断、治療、リハビリの全プロセスを貫くパーソナライズされた解決策へと進化していると指摘しました。

投資の視点:医療AIは成長の持続性が鍵
医療AIの普及には、データ管理や制度設計といった課題も残っています。ただ、中国では国策として医療のデジタル化が進められており、環境は整いつつあります。
投資家の視点では、「技術を持っているか」よりも「現場で使われ、収益を生んでいるか」が重要です。医療AIは短期的なブームではなく、中長期で企業価値を押し上げる成長テーマとして注目を集めています。





