中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない――。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回もBYD(比亜迪:01211/002594)の続きです。
▼参考
・意外と身近にある中国株、街中で探してみた(5) 電気自動車の王者BYD、日本で販売台数を伸ばす「夢を実現する会社」
・中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
デザイナーの要求が生んだ「刀状」のイノベーション
アウディなどの欧州ブランドで実績を積んだヴォルフガング・エッガー氏が追求した低重心で流麗なシルエットは、当時のBYDの技術陣に究極の選択を迫りました。これまでの電気自動車(EV)は、分厚いバッテリーパックを床下に敷き詰める必要があり、どうしても車高が高くなる「腰高」な車体構造が避けられなかったのです。
この物理的制約を打破するためにBYDがたどり着いた答えが、バッテリーセルそのものを薄く、長く伸ばし、車体構造の補強材としても機能させる「ブレードバッテリー(刀片電池)」という着想でした。
通常のEV電池は、まず最小単位である「セル」をいくつか束ねて「モジュール」という箱に入れ、さらにそのモジュールを組み合わせて大きな「パック」にするという3層構造をとります。しかし、この方式では各段階でケースや配線が必要になり、パック内の多くのスペースがデッドスペースになっていました。
BYDは、この中間工程であるモジュールを完全に省き、セルを直接パックに敷き詰める「CTP(Cell to Pack)」技術を開発しました。刀のように細長く剛性の高いセルそのものをパックの梁(はり)として活用することで、無駄な部品を40%削減し、スペース利用効率を従来比で50%以上も向上させたのです。

これにより、エッガー氏が描いたスポーティーな低床デザインと、EVに不可欠な長い航続距離の両立に明確な目途が立ちました。この「薄さ」の実現こそが、BYDのデザイン革命を技術面で支える決定打となったのです。
「安全こそがEV最大の贅沢」三元系への挑戦
しかし、ブレードバッテリーの真の価値は、その形状以上に「素材の選択」にありました。当時、電気自動車(EV)市場の主流は、エネルギー密度の高い「三元系(NCM)リチウムイオン電池」へと流れていました。三元系とは、正極材にニッケル・コバルト・マンガンの3つの金属素材を用いるもので、小型で大容量を実現できるため、航続距離を重視する高級モデルを中心に採用が広がっていました。
一方、BYDがこだわり続けたのは、熱安定性に優れるものの、重くてかさ張るために「安価だが性能が低い」と見なされていた「リン酸鉄リチウム(LFP)電池」でした。
2020年、ブレードバッテリーの発表の場で、王伝福会長は「安全こそが、EVにおける最大の贅沢である」と言い切りました。市場が航続距離を追い求めるあまり、電池の安全性が軽視されている現状に警鐘を鳴らしたのです。
三元系電池で懸念されていた熱暴走のリスクを、素材自体の安定性が高いLFPと、表面積を広げて放熱効率を高めたブレード形状の組み合わせで克服する。この「安全への回帰」という逆転の発想が、BYDを世界で唯一無二のポジションへと押し上げることになります。
釘刺し試験が証明した圧倒的な信頼性
2020年、BYDはブレードバッテリーの安全性を証明するため、衝撃的な比較映像を公開します。バッテリーに釘を突き刺して内部短絡(バッテリー内部でプラスとマイナスが直接触れ、ショートすること)を強制的に引き起こさせる、業界で最も過酷とされる「釘刺し試験」です。
映像では、従来の三元系電池が釘を刺された瞬間に激しく爆発・炎上し、表面温度が瞬時に600℃にまで達する様子が映し出されました。対照的に、ブレードバッテリーは煙すら上がらず、表面温度も30℃から60℃程度にとどまったのです。
この圧倒的な耐火性能は、当時、電気自動車(EV)の火災事故を恐れていた市場に大きな衝撃を与えました。この瞬間、BYDは「安価だが性能が低い」と見なされていたLFP電池を、「世界で最も安全な電池」へと再定義することに成功したのです。
▼ BYD公式:ブレードバッテリー「釘刺し試験」比較映像
次世代EVの基盤「e-Platform 3.0」と海洋シリーズへの展開
ブレードバッテリーという強力な武器を得たことで、BYDの車両設計はさらなる次元へと進化します。2021年、このバッテリーを単なる部品としてではなく、車体構造そのものとして統合する革新技術「CTB(Cell to Body)」を発表。これを中核に据えた次世代基盤「e-Platform 3.0」を投入しました。
この最新プラットフォームを携えて登場したのが、新たなブランドの柱となる「海洋シリーズ」です。
第1弾のコンパクトカー「ドルフィン(海豚)」や、スポーツセダンの「シール(海豹)」には、新たなデザイン言語「オーシャンエステティック」が採用されました。これは、波のうねりや海洋生物の流麗な躍動感をデザインに取り入れたものです。

ブレードバッテリーの「薄さ」が可能にした低重心でスポーティーなシルエットと、海をモチーフにした独創的で流れるような造形が見事に融合。重厚な「王朝シリーズ」とは対照的な、若々しくハイテクなブランドイメージを確立し、BYDの快進撃を決定づけることになりました。
次回もBYDの続きです。お楽しみに。
まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄
今回紹介した銘柄は、主に自動車と電池を手掛けるBYD(01211/002594)ですが、傘下で電子機器受託製造(EMS)業者を手掛けるBYDエレクトロニック(00285)も参考銘柄として掲載しておきます。BYDは香港証券取引所メインボードと深セン証券取引所A株市場に重複上場しており、BYDエレクトロニックは香港証券取引所メインボードに単独上場しています。
【中国の自動車・電池メーカー】電池を祖業とし、03年に自動車事業に参入。22年3月にガソリン車の生産から撤退し、純電気自動車とプラグインハイブリッド車に完全シフトした。自社開発のリン酸鉄リチウム系の「ブレードバッテリー」は米テスラなどにも供給。都市軌道交通事業も手掛ける。子会社のBYDエレクトロニック(00285)を通じてスマホや電子機器の受託製造サービスも展開。米著名投資家のバフェット氏の出資で脚光を浴びた。
【中国の電子機器受託製造業者】電子機器受託製造(EMS)業者として部品製造や組み立てを請け負う。親会社のBYD(01211)が大口顧客。電子・IT、AI、5G、IoT、熱管理、新素材、精密金型、デジタル製造といった技術を強みに、製品ソリューションを一括提供する。事業分野はスマートフォン、新エネルギー車、AIデータセンター、スマートホーム、ゲーム機器、ドローン、3Dプリンター、IoT機器、ロボットなど。







