中国の製薬業界で、新薬を開発する「創薬企業」の成長が加速しています。背景にあるのが、中国政府による政策支援です。新薬の審査期間を短縮したり、医療保険で新薬を使いやすくしたりする取り組みが進んでいます。
さらに、中国企業が開発した新薬を海外の大手製薬会社に売り込む動きも活発です。海外企業との大型契約や新薬の承認が相次いでおり、中国の創薬企業は「安く作る製薬会社」から「世界で通用する新薬を生み出す企業」へと変わりつつあります。
政策支援で新薬を開発・販売しやすく
政府の支援策の一つが、新薬の審査期間を短縮する取り組みです。国家薬品監督管理局(NMPA)は、細胞・遺伝子治療薬について、一定の条件を満たせば革新的な医薬品向けの「30日審査ルート」を利用できるようにする制度改正案を公表しました。新薬候補の審査期間が短くなれば、製薬会社はより早く製品を発売し、売上高を伸ばせる可能性があります。
医療保険制度の改革も追い風です。中国では、公的医療保険の対象になるかどうかが新薬の販売を大きく左右します。国家医療保障局(NHSA)は6月末、2026年版の基本医療保険医薬品リストなどの一次審査結果を公表。公的医療保険向けで557品目、民間医療保険向けで54品目が審査を通過しました。申請件数、通過率ともに前年を上回っています。
野村証券は、今年導入された医療保険への事前申請制度により、新薬が保険対象になるまでの期間が約1年短縮される可能性があると指摘しています。民間医療保険向けのリストに入った新薬については、その後に公的医療保険へ申請することも可能です。新薬を患者に届けやすくなるだけでなく、製薬会社が研究開発費を回収するまでの期間短縮にもつながるとみられています。

海外展開と新薬承認が加速
もう一つの大きな変化が海外展開です。中国の創薬企業と海外製薬会社とのライセンス契約が急増しています。ライセンス契約とは、中国企業が開発した新薬を海外企業が販売する権利などを取得する契約です。中国企業は自前で海外販売網を構築しなくても、世界的な製薬会社を通じて新薬を海外市場に展開できます。
26年上期の海外ライセンス契約額は1000億米ドル近くに達し、年間では過去最高を更新する可能性があります。契約だけでなく、共同で新会社を設立したり、新薬そのものを譲渡したりするなど、提携の形も多様になっています。これは海外の製薬会社が中国企業の新薬開発力を高く評価していることの表れといえます。
実際に大型契約も相次いでいます。中国生物製薬(01177)は7月、英アストラゼネカと新薬候補「TQC3721」の独占ライセンス契約を締結しました。契約総額は最大19億米ドルに達する可能性があります。中国企業にとっては、海外展開だけでなく、契約に伴う収入を得る機会にもなります。
新薬の承認も増えています。四川百利天恒薬業(688506)は、複数のがんを狙う「二重特異性抗体ADC」という次世代型の抗がん剤について条件付き承認を取得しました。科済薬業(02171)は進行胃がん向けのCAR-T細胞治療薬の承認を取得。重慶智翔金泰生物製薬(688443)も自社開発の新薬が承認されました。これらは中国企業が自ら新薬を生み出す力を高めていることを示しています。

業績改善、投資家は「利益につながるか」に注目
業績にも変化が出ています。がん治療薬を開発する諾誠健華医薬(09969)など複数の企業が25年通期で黒字転換しました。これまで創薬企業は研究開発費が先行して赤字になりやすい業種でしたが、新薬の販売拡大や海外ライセンス収入によって利益を生み出す企業が増えています。
では、投資家は何を見ればよいのでしょうか。ポイントは大きく3つあります。1つ目は、売上高や利益が実際に伸びているか。2つ目は、開発中の新薬が臨床試験で良好な結果を出しているか。3つ目は、海外の製薬会社との提携を継続的に獲得できるかです。
特に注意したいのが、「新薬候補がある」ことと「利益を生み出せる」ことは別だという点です。新薬は開発に時間と費用がかかり、臨床試験で期待した効果が得られない可能性もあります。一方、海外企業との大型契約が成立すれば、契約一時金や開発の進捗に応じたマイルストーン収入などを得られる場合があります。
今後1-2年では、公的・民間医療保険の整備による市場拡大、海外ライセンス契約に伴う収入の増加、抗体薬物複合体(ADC)や細胞・遺伝子治療、AIを活用した創薬の進展が成長材料になりそうです。中国の創薬業界は、政府の支援を受ける段階から、独自の技術力で新薬を生み出し、海外でも収益を上げる産業へと変わる転換点にあります。製薬株を見る際には、単に「新薬を開発しているか」だけでなく、その新薬を実際に売上高や利益につなげる力があるかを確認することが重要です。




