中国株、あのテーマはどうなった?

第66回 新中式飲食業:若者を引き付ける「ネオ中華」消費トレンド

伝統文化とコンテンポラリーな美意識を融合


中国の消費シーンで注目されているキーワードの一つに「新中式」があります。『人民日報』系調査機関の人民網研究院によると、中国伝統文化が内包する価値とコンテンポラリーな美意識を融合させたデザイン理念で、ファッションや観光、エンターテインメント、飲食などの分野で若者を中心に支持されています。「ネオ中華」とでも呼ぶべき消費の新潮流です。


新中式の飲食業態は2010年代半ば、「奈雪の茶」や「喜茶」といったティードリンクチェーンの登場とともに広がり始めました。紅餐産業研究院の「新中式餐飲洞察報告2024」によれば、中国の消費者の6割が実際に新中式飲食店を利用した経験があります。最近の特徴は業態の細分化で、ティードリンク(中国語では茶飲)のほかに「新中式ティーハウス」や「新中式ハンバーガー」の人気が高まっているとしました。



急成長する新中式ハンバーガー


新中式飲食業のなかでもハンバーガーは成長が著しい業態です。「新中式餐飲洞察報告2024」に掲載されたデータによると、2024年6月時点の中国の新中式ハンバーガー店舗数は約1万8000店。2023年1月時点では約3500店でしたから、1年半で5.1倍に増えたことになります。「塔斯汀(TASITING)」などのフランチャイズチェーンが主に中小都市で積極的に出店しました。


「マクドナルド」や「ケンタッキーフライドチキン」といったファストフード大手よりも安い価格設定が強みで、来客一人当たり消費額は5-20元(約108-431円)です。近年はメニューにも工夫を凝らし、一部のチェーンは麻婆豆腐バーガーや螺獅粉(タニシ麺)バーガーを投入。通常のバンズの代わりに中国的の伝統的なパンである饅頭(マントウ)を選べる店もあります。


ティードリンク市場に新興ブランド、課題は価格競争からの脱却


一方、ティードリンクは依然として新中式飲食業で最大の業態で、「新中式餐飲洞察報告2024」によれば2024年6月時点で中国全土に2万を超える店舗があります。近年は新ブランドの参入が目立ち、「覇王茶姫」を筆頭に「茶話弄」、「茶顔悦色」などが勢力を伸ばしています。


同報告は新中式ティードリンクの成長の裏側にある問題点も指摘しました。まず、多くのブランドが低価格競争から抜け出せません。来客一人当たり消費額が15元超-20元以下(約324-431円)の店が業態全体の6割超を占め、前述した新興3ブランドもこの価格帯に入ります。20元超-25元以下は9.5%、25元(約539円)を超える店は4.8%しかありません。


加えて、どのブランドも中国の伝統とヘルシーなイメージを重視した結果、製品の素材や名称、アピールポイント、メニュー構成が似たり寄ったりになってきました。「新中式ティードリンクのブランドは多方面で新たな創意工夫が必要になる」と同報告は述べています。


茶を飲む体験を売る「新中式ティーハウス」


競争が激化する新中式ティードリンクから派生した業態が「新中式ティーハウス」です。新中式ティードリンクの店舗はカジュアルなデザインで、テイクアウトやモバイルオーダーでの提供が主流ですが、新中式ティーハウスは茶を楽しむための優雅な店舗空間を演出し、茶葉や茶器にもこだわります。冒頭に挙げた「奈雪の茶」や「喜茶」などが進出し、2023年ごろから「微信(WeChat)」などのSNS上で話題が盛り上がるようになったといいます。



古茗控股、香港IPO計画を再始動


最近、中国の株式市場でも新中式飲食業が注目テーマとなっています。新規株式公開(IPO)の動きが再び活発になってきたからです。古茗控股(Guming)が12月15日、上場目論見書草案を香港証券取引所の公式サイトで公開しました。


古茗控股にとって香港IPOは再挑戦です。2024年1月に香港証取に上場申請を提出したものの、有効期限の6カ月以内に中国本土の管轄当局である中国証券監督管理委員会(CSRC)の承認を得られず、いったんは断念したと伝わっていました。また、同業の蜜雪氷城と滬上阿姨も1月から2月にかけて上場を申請しましたが、その後は進展がありません。


背景には先行して上場したティードリンクチェーン運営2社の株価下落があるようです。奈雪の茶(02150)四川百茶百道実業(02555)がそれぞれ2021年6月、2024年4月に香港市場で新規株式公開(IPO)を果たしましたが、ともに上場後の株価推移はさえません。ロイター通信は2024年9月、中国消費者のセンチメントが弱含みのなか、香港上場のティードリンク銘柄が低迷したことでCSRCが株式市場の需給悪化を懸念し、同業のIPO承認を保留したようだと報じました。


しかし、今回CSRCが古茗控股のIPO計画を承認したことで、棚上げになっていた他社の上場計画も再始動に向けてはずみがつきそうです。例えば覇王茶姫について、中国本土メディアは2024年4月、米国市場上場により2億-3億米ドルを調達する計画で、シティグループおよびモルガン・スタンレーを顧問に迎えたと報じました。また、外電は同年3月、消息筋の話として、「茶顏悅色」ブランドを展開する湖南茶悅文化が香港上場を目指し、中国国際金融(CICC)およびモルガン・スタンレーと幹事会社に起用すると伝えています。


この連載の一覧
第66回 新中式飲食業:若者を引き付ける「ネオ中華」消費トレンド
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第62回 観光業界: 25年は休日が2日増加、国内旅行ブーム到来か
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第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
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第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
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第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
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第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
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第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
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第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
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第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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