苦境の中国不動産業界、23年販売額は6.5%減
「中国で不動産バブルが崩壊しつつある」…近ごろはこんなニュースやコメントを目にすることが珍しくなくなったように思います。大手の不動産開発会社が巨額負債の元利払いに行き詰まり、債権者との交渉が長引いている、あるいは頭金を払った高級マンションの建設がストップし、住宅ローンを抱えた消費者が抗議活動を起こしたなどと伝わりました。
実態をデータで確かめてみましょう。中国の国家統計局が1月17日に発表した「2023年不動産市場基本状況」は、2年にわたる不況をはっきりと示しています。23年の商品不動産(不動産デベロッパーが市場で販売する物件)の販売額は11兆6600億元と前年比6.5%減りました。うち住宅販売額は6.0%減の10兆3000億元。不動産開発会社が用地の取得や建設工事などに投じた開発投資額は9.6%減の11兆900億元で、うち住宅開発への投資は9.3%減の8兆3800億元でした。
国家統計局の康義局長は同日の報道向け会見で「不動産市場にはポジティブな変化もあった」と強調しました。ただ、商品不動産販売額と不動産開発投資額の下落率が前年(それぞれ26.7%、10.0%)と比べれば縮小したと指摘するのが精一杯。「不動産の竣工面積が23年に17.0%増えた」とも強調していますが、増加の理由が「物件引き渡しを後押しする措置が奏功したから」とあっては手放しでは喜べません。当局が支援しなければ、買い手に引き渡されなかった物件が多数あったと認めたも同然です。
竣工面積とは裏腹に、23年の着工面積は前年比20.4%減りました。不動産開発業者が調達した資金も12兆7500億元と、13.6%減っています。要するに、不動産会社は新規の物件開発に精を出すより、住宅在庫の圧縮に力を入れました。不動産市場の先行きは厳しいとみているわけです。
今後の成長を支える都市化と「不動産発展の新モデル」
もっとも、長期的には中国の不動産市場は成長するという見方は一定の支持を得ています。康局長は成長の根拠を二つ挙げました。まず、都市化の進展です。同氏によると、23年時点で先進国の都市化率は80%を超えていますが、中国では66.16%にとどまっています。「中国の都市化は依然として発展の途中だ。上昇余地は大きい」と同氏は述べました。
中国の都市には毎年1000万人を超える農村出身者が流入します。当然、こうした「新市民」とよばれる人々の住宅が必要になります。さらに、生活水準が向上するにつれ、もともと都市に住んでいた人もより広く、快適で機能が充実した住宅を求めるようになっています。
3年前に提起の新モデル構想、全体像は「計画中」
康義氏が挙げたもう一つの根拠が「不動産発展の新モデルの構築」です。これまでの発展と同じ仕組みはもはや機能しない。ならば「不動産市場が成長できる新たなモデルを創り出そう」という政策を指しています。実はこの政策、中国の住宅・都市農村建設部の倪虹部長(日本風に言えば、建設省の大臣です)が「不動産発展の難題を打ち破り、不動産市場の平穏で健全な発展を促進する根本的な施策」と意気込む割に、市場の評判がいまひとつ芳しくありません。中国指導部が2021年12月に開いた会議で提起して以来3年あまり経過したのに、康義氏によれば「積極的に構築している最中」という状態。政策目標とスケジュール、具体的な施策がいまだにはっきりしません。
もっとも、新モデルの理念は示されています。倪虹部長は23年11月、初めて自宅を買う人やより良い住宅への住み替えを目指す人のニーズに応え、「人・住宅・土地・お金」が結び付いた新制度を確立し、住宅価格が急変動しないようにすると説明しました。具体的な施策として、低所得者向け保障性住宅の建設、城中村(都市の中に取り残された村落)の再開発、緊急時の避難所に転用できる「平急両用」公共インフラの建設からなる「三大工程」を進めるとしました。
中国当局が推す「三大工程」、市場の評価は冷ややか
最初に三大工程を不動産発展新モデルの構築と結び付けたのは、中国共産党中央政治局が23年4月28日に開いた会議です。すなわち、習近平総書記(国家主席)お墨付きの政策ということです。ところが『香港経済日報』は、三大工程を実施すれば不動産市場の需給は改善するだろうが、「新モデルの本体ではない」と冷ややかです。
問題は、三大工程に現行モデルの主役である「商品房」が入っていないことでしょう。これでは「不動産開発新モデル」の構築は、母屋に手を付けない増改築のようなものです。
「商品房」とは、冒頭に取り上げた国家統計局のデータにあった「商品不動産」のことです。住宅やオフィスなどが商品なのは当然ではないか、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし中国は社会主義の国。住宅は国民に分配されるものでした。商品房が登場するのは1980年代で、1998年の住宅制度改革をきっかけとして商品房市場が拡大していきました。
商品房市場では、地方政府が土地の使用権を不動産会社に売り、不動産会社が住宅を開発して消費者に販売します。金融機関は不動産会社に事業資金を融資し、消費者に住宅ローンを提供します。この不動産発展モデルは中国の経済成長に大きく寄与しました。現在、不動産業は国内総生産(GDP)の約3割を占めるとされます。
「住宅神話」が支えた従来型発展モデル
お気づきでしょうが、この発展モデルは永久機関ではありません。誰もが「住宅価格は上がり続ける」と信じていることが前提だからです。いまや、若者にとって大都市の住宅は高根の花となっています。そもそも、成長率が鈍化し、人口が減少し始めた中国で住宅価格が実需に支えられて上昇し続けると予測するのは無理があるでしょう。日本の「土地神話」がそうだったように、中国の住宅神話に基づく発展モデルもいずれ行き詰ります。
中国政府は20年以降、先手を打って不動産バブルを抑え込む措置を強化しました。不動産企業による過剰な借り入れを許さず、住宅ローンの条件を厳しくしました。値上がりを見込んで複数の住宅を取得する行為も制限しています。仕上げに、21年10月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会が、不動産税を試験的に導入すると決めました。
ただ、当時は新型コロナウイルス禍の最中だったこともあり、住宅市場は深刻な不況に見舞われました。中国恒大集団(03333)や碧桂園(02007)などの民営の不動産大手が抱える負債問題も露呈しました。
解体必至の現行モデル、問題先送りは限界
では、コロナ禍の影響を抜け出し、中国当局が不動産バブル退治をあきらめれば、以前のような不動産市場の発展が続くのでしょうか。今では「永遠に上昇し続ける住宅価格」などあり得ないと、多くの人が気付いています。現行モデルを維持したまま、中国政府が金融支援や規制緩和を繰り出しても問題の先送りにしかなりません。ではどうするのか。中国の為政者は、不動産市場にかかわる産業や家計の痛みをなるべく避けながら、「商品房」の値上がりに依存しない発展モデルを創り上げようとしています。繊細さと大胆さを同時に求められる難題です。
新モデルを構築するということは、裏返せば制度疲労に陥っている「現行モデル」を捨てるということです。ただ、現行モデルには不動産市場だけでなく、地方政府、金融機関、さらには住宅取得によって資産を形成してきた富裕層の利害がからんでいます。当局が強い権限を持つ中国といえども、解体作業には相当の覚悟が必要でしょう。