12月の会議はポジティブサプライズ
中国株式市場では、中国共産党中央政治局が毎月開く会議は常に注目の材料ですが、12月9日の会議は株式相場を大きく押し上げるポジティブサプライズとなりました。
市場を沸き立たせた要素は主に3つあります。まず、同会議は2025年に「適度に緩和的な金融政策」が必要と指摘しました。「適度に緩和的」という表現が用いられたのは、リーマン・ショック後の世界金融危機に見舞われた2009-10年以来14年ぶりのことです。2011年以降は「穏健」を基調としていましたから、今回の表現の変更は金融政策スタンス転換の明確なシグナルと受け止められたわけです。
次に、「さらに積極的な財政政策を実施する」と中央政治局会議が指摘したことも歓迎されました。実は、財政政策の基調は2009年に「穏健」から「積極」へ切り替わっていました。今年は「さらに」を付け加え、表現を強めたわけです。
3つ目に、2025年の経済政策に関して「超常規のカウンターシクリカル調節を強化する」との方針を示しました。「通例を超える、型破りな手法で景気変動を抑える」という意味だとお考え下さい。中国メディア『証券時報網』は、中央政治局会議でこの語句が使われるのは初めてだとして「政策当局が成長の安定化に向けた決意が見て取れる。政策は受動的な対応から主導的な攻めに転じる」と報じました。
投資家は半信半疑?伸び悩むハンセン指数
ただ、中国指導部が発したメッセージに応じて投資家が買い一辺倒になったわけではありません。中国国営の新華社が12月9日午後に中央政治局会議の内容を伝えると、香港市場でハンセン指数が大引けにかけて急伸しました。ところが翌10日は始値で心理的節目の21000ポイントを上抜けたものの、結局は反落します。11日も続落して終えました。
香港経済紙『信報』によると、モルガン・スタンレー中国株チーフストラテジストの劉鳴鏑氏は「刺激策があるのは良いことだが、市場が納得するのは実際に経済指標が改善した後だ」と述べました。こうした冷めた声が出るのも、理由があってのことです。まず、「適度に緩和的な金融政策」ですが、人民元相場が足かせになりそうです(第52回を参照)。再登板するトランプ米大統領の下で米国のインフレが再燃し、米連邦準備理事会(FRB)が利下げしにくくなるシナリオが意識されている以上、中国としては性急な利下げにより人民元に下押し圧力がかかる事態は避けたいでしょう。
モルガン・スタンレー中国チーフエコノミストの朱海斌氏は「中国政府は人民元の大幅安や過度な純金利マージンの縮小を望んでいない」と指摘し、中国人民銀行(中央銀行)は政策金利の引き下げを急がず、量的緩和にも消極的との見方を示しました。その上で「財政刺激策の方がより効果的に中国が直面する経済的課題を解決できる」と述べました。
エコノミストが危ぶむ「財政バズーカ」待望論
朱海斌氏の予測では、中国は財政予算の赤字率を24年の3%から25年には3.8%に引き上げ、地方政府の財政収支なども含む広義の財政赤字の国内総生産(GDP)に対する比率も今年の11.8%から来年には12.8%に拡大します。ただ同氏は、中国政府が「バズーカ式」財政刺激策を取ると期待しないよう警告しました。
市場関係者の見立てでは、財政出動の主役となるのは消費財の買い替えを促進する「以旧換新」措置の増強と、新型インフラと新型都市化の「両新」プロジェクトの支援強化です。実際、中国財政部は来年の財政赤字枠を積極的に活用し、専項債(インフラ債)の発行規模拡大、超長期特別国債の発行継続、「両新」プロジェクトの支援強化、中央政府から地方政府への財政移転の増加を進めると表明しています。また、今年7月に発表した「以旧換新」と大規模な設備更新の強化策には、超長期特別国債で調達する3000億元を投入する措置が盛り込まれました。
5カ年計画目標の達成を優先、今後の焦点は構造問題
ただ増強したとは言え、要するに導入済みの景気振興策の延長です。9月の中央政治局会議を取り上げた第57回でもご説明しましたが、中国の経済不振の理由は有効需要の不足にあります。根底にあるのは、所得や資産の増加に自信が持てない消費者の支出抑制や、景気の先行きを懸念する企業の投資削減です。こうした根本問題を解決するには、土地使用権の売却収入に依存する地方政府財政の改革や、都市と農村の格差問題などの構造問題に手を付けていかざるを得ません。
ところが、中央政治局が12月の会議で来年の経済政策について強調したのは「第14次5カ年計画(2021-25年)で定めた目標と任務を高い質で達成し、第15次5カ年計画を良好に開始できるようしっかりと基盤を築く」ことです。つまり、5カ年計画の目標を最終年にあたる2025年で達成することが主眼です。裏返せば、2026年以降の5年間に構造改革へ踏み出すかを見極めるため、投資家は来年の中央政治局会議や全国人民代表大会(全人代)などの内容に引き続き目を凝らすことになりそうです。