この連載の第5回「半導体の国産化」(その1)のテーマは、「国策を脅かす前門の米国、後門の腐敗」でした。そのうち腐敗については、今年に入って果断な処分が下されたことが明らかになっています。
国策ファンド元幹部の党籍を剥奪、収賄疑いで起訴
今年1月、国家開発銀行国開発展基金管理部の副主任だった路軍氏が中国共産党の党籍を剥奪されました。昨年夏に国策半導体ファンドの「国家集成電路産業投資基金」や、同基金の設立を主導した国家開発銀行の幹部が相次いで「重大な規律違反と法律違反」の疑いで当局の調査を受けましたが、なかでも路軍氏は大物の一人。中国共産党の中央規律検査委員会(中規委)によると、同氏は謝礼を受け取って顧客企業に規定違反の投融資を行ったり、職権を使って親しい人物が経営する会社が利益を得させたりしていたということです。同氏は以前、同基金の資金管理を担う国家芯片大基金管理公司の総裁も務めていました。
路氏が中国の最高人民検察院によって起訴された3月20日、紫光集団の趙偉国・前会長も送検されました。紫光集団は国家集成電路産業投資基金の出資先であり、買収・合併によって急成長した中国半導体大手でした。ところが巨額負債が響いて経営が傾き、現在はファンド傘下で再建の途上にあります。中規委と国家監察委員会は、路氏と趙氏が収賄や横領などにより「国家に厳重な損失を与えた」と指弾しました。ほかにも国家集成電路産業投資基金の丁文武・総経理、紫光集団のチョウ石京・元総裁などが中規委の調査を受けています。
人心一新に続き投資見直し、上場企業から出資引き揚げも
国家集成電路産業投資基金が設立されたのは2014年。投資規模は第1期が1400億元、第2期が2000億元に上り、中国では「大基金」と言えば同基金のことを指します。国家戦略の上で重要な産業に巨額を投じるのは中国だけのお家芸ではありませんが、資金と権力が集中するところが腐敗しやすいのも洋の東西を問わないようです。中国当局としては、渦中の大物2人の処分を済ませ、人心一新で再出発を図りたいところでしょう。
幹部を入れ換えたとなれば、戦略を見直すのが自然な流れ。国家集成電路産業投資基金の出資が仕切り直しになる兆候はすでに見えています。中国メディアの『新浪網』は3月28日、同基金が第1期で投資した上場企業の株式を一部手放していると伝えました。『証券時報』のデータベース「数据宝」によると、今年に入って同基金が出資持ち分を減らした半導体企業は、上海証券取引所に上場する上海万業企業や安集美電子科技など6社。うち、フォトレジスト材料大手で深セン証券取引所に上場する江蘇雅克科技は27日、同基金が江蘇雅克科技株を最大で475万9300株(発行済み株式の1%)売却する計画だと明らかにしました。現時点の持ち株数は2379万6500株です。
中央科学技術委員会を新設、重みが増す共産党の指導
今後、中国当局が国家戦略のなかで半導体企業と国策ファンドの関係をどう構築し、政策を再設計していくかは明確になっていません。英紙『フィナンシャル・タイムズ』(電子版)は3月21日、消息筋の話として、中国が自国の半導体大手を対象に補助金の交付条件を緩和し、国家科学技術プロジェクトでの企業の権限も広げると伝えました。事実だとすれば、半導体ファウンドリーのSMICと華虹半導体、半導体製造装置メーカーの北方華創科技集団と中微半導体設備などには追い風です。
いずれにせよ、「自立自強」を掲げる習近平指導部が自前のサプライチェーンの構築に一段と力を入れるのは間違いないでしょう。3月13日に閉幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では、国務院(内閣に相当)の組織再編が決まり、科学技術についても中国共産党中央委員会に新設される中央科学技術委員会の指導が強くなりそうです。